以下は、本年1月31日に開催された東海支部設立記念セミナーで、参加者の皆様からお寄せ頂いた御質問に対
する回答です。御質問の文言そのままではなく、その意を汲んで適当にアレンジして現地事務所(Rouse & Co.
International,BangkokおよびJakarta)に質問しました(5月12日現地訪問)。なお、各項目中の「・」印の
回答は、セミナーまでの現地への質問で判明していた事項です。またQ&A中の「注」は現地回答に対して付記し
たものです。
A.タイ
1.特許
Q1.他の多くの国と異なり、特許出願の公開時期が特許法で定められていないのは何故か。将来改正される見
込みはあるのか。
A1.基本的には外国による特許支配を避けたいという意向が働いている。すなわち、外国特許の早期権利化に
は従来消極的であった。しかし最近は特にPCT出願でタイ国内移行した場合には移行からほぼ1年くら
いで公開されている。パリルート出願の場合には相変わらず出願公開が遅いことが多い。特許法で出願公
開時期を定めることについては賛否があり、将来の改正の方向については不明である。
Q2.公開後審査請求してもなかなか審査が進まないが、しつこく審査官を督促すれば審査は促進されるのか。
A2.やみくもに督促しても当然無視される。基本的には日米欧の特許性ありとの審査結果(審査国について限
定は無いが、日米欧の審査結果は信頼されている)を提出し、提出から6か月程度経過した後に、審査官
にTEL等して審査段階を確認するのが良い。
Q3.早期審査制度はあるのか。
A3.早期審査制度は特に規定されていない。審査促進のためにはA2で回答したように、特許性ありとの他国
の審査結果を提出するのが良い。
Q4.公開された特許出願はDIPのデータベースで例外なく全て見ることができるか。
A4.見ることができる。(注 但し詳細はタイ語なので図面と名称から判断するしかない。図面が見られない
ものが往々にしてある。データの蓄積が無いからのようだ。この場合は現地代理人に依頼して包袋を見て
もらうしかない。日本の有料データベースで、英語圏へのファミリー出願がある場合には、図面を含めて
その内容を確認できるようにしたものがある)
その他
・通常は現地代理人から出願公開手数料の納付(特28条)について連絡があり、出願公開日は審査請求で
きる5年間の起算日になるため(特29条)公開されたことの連絡もある。
・特許出願から小特許出願への変更は出願公開前までしかできない(特65条の4)。
・タイとの間のPPHはH26年1月から開始されている。現在20件程度がPPHによってタイ出願され
ているとのこと。PPHの詳細は特許庁HPに掲載されている以上のことは不明である。
・職務発明の報酬(特12条)については、実際に特許庁長官に報酬請求がなされたことは殆ど無く、決定
や判例も出ていないので、いくらが相場なのか、どのような支払方法が合理的なのか等は不明である。
2.小特許
Q1.特許法65条の6によれば小特許も審査請求可能であるが、審査結果はどの程度の期間で得られるか。
A1.DIP(タイ特許庁)の審査官の話では1年程度である。今までのところ、小特許出願で審査請求をクラ
イアントから依頼されたことは無い。
Q2.小特許で権利行使をする場合には、新規性有りとの審査結果を得ておくことが必要との話がある。この場
合、進歩性無しとして拒絶されているが新規性については否定されていない日本の審査結果を提出するこ
とは有効か。
A2.有効である。Q1の審査請求をするより、日本等の審査国での審査結果や引例を出して新規性有りと主張
した方が良いであろう。
Q3.セミナーで提案したが、日本の審査で進歩性無しとして拒絶されても、新規性があれば、日本での特許出
願に基づいてタイで小特許出願しておくというのは有効な方法か。
A3.有効である。
Q4.小特許の方が特許よりも出費が少ないと思われるが、ざっとどの程度だと思うか。
A4.ざっと言って小特許の出費は特許の半分程度だろう。ただし、存続期間やクレーム数の限定等、制約があ
るので気を付ける必要がある。簡単な技術を簡易に保護したい、という意味では有効だろう。
Q5.小特許の審査結果は当事者以外でも見ることは可能か。
A5.出願公開された後は包袋閲覧すれば誰でも見ることができる。
3.商標
Q1.出願当初は包括的な「バッグ」を指定商品として記載し、後の補正で下位概念の「スポーツバッグ」「自
転車バッグ」としたら、指定商品の数を増やすことになるので認められない、とされた例があるが、この
ような実務なのか。
A1.そのような実務である。したがって、出願当初の指定商品は、現地代理人と相談して具体的な名称を挙げ
た方が良い。出願料金は嵩むが。
Q2.模倣防止用のホログラムシールは商標として保護されるか。
A2.商標の定義に入らないものとして、保護されない。
Q3.著名商標の所有者はその模倣行為に対してどのような手段が取れるか。
A3.商標出願に対しては異議申立、登録商標については無効請求、流通行為に対してはパッシングオフによる
刑法上の措置等である。
その他
・セミナーのQ&Aにおける補足説明
パッケージの詰め替えや内容物の小分けを行った商品は、詰め替えや小分けの際に品質が変異する可能
性があり、もともとの商品の品質が保証されない。しかしながら、もともとの商品に使用される商標と同
一の商標を、詰め替え後又は小分け後の商品パッケージに付しても、現状は商標権の侵害を問えない。商
標には、品質保証の機能があり、これを担保するための法律改正が検討中である。
4.権利行使
Q1.知財裁判所(CIPITC)は制御方法のような種類の特許侵害事件を解決できる能力があるか。
A1.知財裁判所の判事のうちアソシエート判事は技術専門家である。その技術的判断は他の判事も尊重するの
で問題はない。(注 現地代理人の回答は楽観的だが、全く問題が無いとは言えないだろう。確かに技術
的バックグラウンドのある者が合議体の一員であるところは、単なる調査官である日本よりも制度的には
優れているかもしれないが、特許理論は日本ほど熟成されていない。制御関係の侵害事件については前例
が無いとのことなので、パイオニア的な困難さは付きまとうと思われる。制御の発明について、侵害の判
断が容易でないのは、日本と変わらない。侵害品を入手して、動作を確認したり、場合によっては逆アセ
ンブルするなどして、特定する必要がある。この点もタイと日本で相違はない。もっとも、権利行使の場
面では、裁判所は制御関連の事件を扱いなれていないので、技術的な内容をより一層、丁寧に説明する必
要があると思われる)。
Q2.模倣品を取り締まる機関にはどのようなものがあるか。これらの機関は良く機能しているか。
A2.警察、税関が主な機関である。これにDIPが協力する体制になっている。問題なく機能していると思
う。
その他
・刑事・民事の使い分けについて、セミナーで例示したスターバックス事件は、あくまで一事例に過ぎず、
「このような方法がよい」という例ではない。一般的には、当日配布資料6頁に示した方法がよいと考え
る。あとは事例に応じて、種々の面から具体的に判断する他ない。
・権利行使の際には、権利者であることを示す書類が必要となる。従って、登録簿などの写しを取り寄せる
ことになる。
5.契約
Q1.ライセンス契約はDIPに登録する必要があり(特41条)、契約内容が特39条に違反している(不当
に反競争的な条件、制限、ロイヤリティ)場合には、特許が取り消されることもあり得る(特55条
(2))、となっているが、その理由は。
A1.タイは開発途上国なので、外国からの技術導入が多い。その際に力関係で不当な契約がなされてタイ国民
の利益を損なうことがないように監視するためである。
Q2.特39条のロイヤリティについては不当に高いというようなことか。
A2.そうだ。特許の取消しを免れたい場合は契約内容を変更してロイヤリティを安くする必要がある。
Q3.DIPに契約を登録する場合にどのような書類が必要か。
A3.公証を受けた契約書原本および当事者の代理人の委任状等である。
6.その他
Q1.特許指向あるいは高度技術指向の、いわゆる研究開発型企業に対して税金免除とか軽減とかの優遇策は
あるか。
A1.この辺りの情報は持ち合わせていないが、タイの技術高度化に貢献している企業に対しては何らかの優
遇策があると思う。BOI(投資委員会)に問い合わせると良いだろう。
Q2.DIPのデータベースへアクセスするIDを取得する条件は何か。
A2.特許(小特許、意匠を含む)に関してはIDは不要である。商標の詳細な情報を得たい場合にIDを取
得する必要がある。IDの取得はタイ国籍を有するものしか認められていない。商標の詳細なデータベ
ースの構築には多大の費用をかけており、その利用をタイ国民に限る趣旨である。来年にはタイ国民の
限定が無くなるという話もあるが、不確定である。
その他
・特許調査はDIPの提供するデータベースで全て可能であると回答する事務所もある一方、100%では
無く、完全を期したい場合にはDIPでの手めくり調査が必要と回答する事務所もあって、意見が割れて
いる。また、タイの特許出願については公開の遅いものも多く、これらは出願から数年たっていても見る
ことができない。タイ出願には他国でのファミリー出願がある場合が多く、特に英語圏で出願されていれ
ばそのファミリー出願の公開公報によって詳細内容を知ることができる。
B.インドネシア
1.特許
Q1.職務発明に対する報奨規定はあるか。また報奨額はどの程度か。
A1.特許法12条に一般的な定めがある。しかし具体的なことになると細かい算出規定は無いし、裁判所の判
決もないから、今のところ不明である。
Q2.特許調査のためのデータベースは特許庁から提供されているか。
A2.http://paten-indonesia.dgip.go.id/index.phpで提供されている。しかし、完全ではないので調査を特
許庁に申請することになるが、かなりの時間がかかる。(注 データベースはインドネシア語なので外国
人が使用することは現実には難しい)
Q3.包括委任状を利用することは可能か。
A3.包括委任状は利用できない。個別に委任状が必要である。
Q4.優先権証明書の翻訳は必要か。
A4.必要である。
Q5.ライセンス契約は特許庁に登録(記録)する必要があるか。
A5.特72条によって記録する必要があり、その内容は公開される(同条)。記録されていない場合は第三者
に対し効力を有さない(同条)。しかし、これに関する施行規則が全く定められていないため、現実には
この制度は行われていない。
Q6.特許出願および小特許出願は特42条に従って全て公開されるか。
A6.全て公開されている。公開情報はhttp://www.dgip.go.id/publikasi-hkiで確認できる(注 データベ
ースはインドネシア語なので外国人が使用することは現実には難しい)
その他
・出願から登録までの期間は、オフィシャルな発表では5-6年とされているが、現地代理人の経験では
7-8年を要している。
平成25年度東南アジア知財委員会
委員長 弁理士 守田 賢一