「審査請求制度」について、料金改定等を含めて説明します。
Q 審査請求制度は特許出願だけにあるのでしょうか。
A そのとおりです。産業所有権には技術に関する特許権、実用新案権、デザインに関する意匠権、商標に関する商標権があります。
実用新案権は無審査主義を採用していて、実用新案登録出願をすると、形式審査のみを行い、実用新案権が発生し、登録後、最大6年間、権利があります。
又、意匠登録出願と商標登録出願は、審査請求制度がなく、原則として、出願順に審査官が審査を行います。
Q 審査請求は何時したらよいのでしょうか。
A 審査請求は出願から3年以内でしたら、何時でもできます。尚、平成13年9月30日以前の特許出願における審査請求日限は、出願日から7年です。
この審査請求を何時したらよいかは、先ず、特許庁は、審査請求がされた日から2年以内に審査をすることを目標にしていますことを前提に、2年後に権利成立させるのが、経済性等を考慮してよいと考えたときには、特許出願と同時に審査請求をするのがよいでしょう。
しかし、この特許出願後に、改良等の発明があると思われるときには、審査請求を、出願後、1年以内はしないのが得策と思われる。何故なら、1年以内の改良発明に対しては、国内優先権主張をして、その改良発明を加味した新たな特許出願をすると、その後、1出願として扱われるので経済的に有利です。
即ち、前記基本特許出願に審査請求をしてしまった後に、国内優先権主張をして新たな特許出願をすると、基本特許出願は取下げになり、審査請求料が無駄になりますので、出願後1年以内に審査請求をされる場合には、改良発明の有無等を考慮した上で、審査請求をするか否かを判断されるのが得策かと思います。
又、特許出願後に、出願発明が公知発明であったと判明する場合もありますので、審査請求料の無駄を避けるために、何時、審査請求をするのがよいか、十分に吟味して行うのが重要です。
尚、審査請求期間が3年と短くなったので、審査請求をすべきか否か、迷うことになることが多くなると予想します。旧法に基づく特許出願は7年であるので、7年も経てば、権利取得の経済性はおおよそ推定できるが、この審査請求日限の短縮が、産業界に如何に影響を与えるか、興味があります。
Q 審査請求の費用はいくらでしょうか
A 現在の審査請求費用は、基本料が84300円で、1請求項に対して2000円を加算する金額であり、例えば、1請求項では86300円です。
しかし、この4月1日以後の特許願に対し、特許庁は、「出願料+審査請求料+登録料(年金)」の全体に対し、旧来に比して安くなるように改定します。
例えば、請求項の数を「2」として計算しますと、特許出願料は21000円が16000円に、審査請求料が88300円が176600円に、登録料(1~3年)は45600円が9000円になります。そして、「出願料+審査請求料+登録料」の全体の金額は、現在と改定法を比べると、約5年の権利維持の時点でほぼ同額になり、6年度以後の権利維持を図ると安価になります。その結果、5年未満で権利放棄する場合には、特許出願は実質的に値上げとなります。
尚、この審査請求費用と登録料については減免猶予の制度がありますが、アメリカの小企業(従業員数500名以下)が半額になるという、簡便な制度に比して、日本の場合にはその要件は厳しく提出書類が多いのが現状です。
Q 審査請求に基づく審査結果について
A 審査官は、審査請求に基づいて、原則として、審査請求された順に審査を行い、この審査結果は「登録査定」と「拒絶理由通知」の何れかです。
(イ)登録査定になったら、後は、登録料を納付すれば、特許権が発生しますので、権利維持期間を選定して納付すればよいです。
尚、この登録料(年金)は、原則として1年毎の料金を納付すれば権利維持を図ることができるが、最初の登録料は、少なくとも3年間は権利維持を図るのが相当との理由で、最低3年間分を納付しなければならない。
(ロ)一方、拒絶理由通知を受けたときは、特許事務所に委任している場合、特許事務所への費用負担が増加して好ましくないとの考えもある。しかし、公知発明がはっきりしない段階で、権利を取得すると、この権利範囲が妥当であるか否かが、後日問題になる場合がある。従って、拒絶理由を受け取たときには、冷静に、できるだけ広い権利範囲で応答することが可能であるので、必ずしも不利益にならないと思われる。
この拒絶理由通知における拒絶理由の大半は、特許法第29条第2項の「創作性」に関するものである。この判断は、審査官によっても異なるほど困難なものであるが、上級審の拒絶査定不服審判においては、審査官の個人の見解ではなく3名の合議体での判断ですので、より、妥当な判断と言える。
(ハ)拒絶理由で注意を要するのは、「最後の拒絶理由通知」を受け取った後の補正書である。
(a)この「最後の拒絶理由通知」は、審査官が新たな調査を要する発明に変更するのを認めない措置で、審査の迅速化を図るために制定されたものである。そこで、この「最後の拒絶理由通知」を受けると、権利範囲を狭めざるを得なくなるので、最初に拒絶理由通知を受け取ったら、明細書全体を精査し、如何なる権利を取得するかを検討をした上で、補正書を作成することが重要である。
(b)尚、この「最後の拒絶理由通知」にまつわる事案で、困ったことが起きたので記載する。
特許出願は分割出願であり、審査の段階の拒絶理由は特許法第29条第2項の「創作容易性」で拒絶査定になった。そこで、拒絶査定不服審判を請求すると共に、補正書で特許請求の範囲を狭めた。
前記拒絶査定不服審判において、特許請求の範囲を補正しているので、審査前置になったが前置解除となり審判に継続した。
そして、審判の審理が始まり、審判長から、この分割出願は新規事項に該当するために、分割出願を認めることができないとのことであった。即ち、審査の段階と相違する拒絶理由である。
しかし、「最後の拒絶理由通知」以後であり、補正が認められる範囲は「減縮」に限定され、この審判長の見解を認めると、取得可能な権利範囲がなくなり、拒絶査定不服審判を請求した意味がないことは明らかである。
即ち、若し、審査の段階で、「この分割出願は新規事項に該当する」という拒絶理由を受け取っていたら、補正可能で、他の権利範囲で権利取得が可能性があったにも拘らず、審判の段階に到って、相違する拒絶理由の存在をもって登録できないと判断されるのは、特許出願人にとっては不利益を被ることになる。
しかし、現在の規定では、審査の段階と審判の段階で、拒絶理由が相違する場合に対する特例規定がない現状では、特許出願人は一方的に不利益を受けなければならないか、法改正を含めた発明者保護を図る特許法の立法趣旨に鑑みての運用を望むものである。
又、前記拒絶査定審判に継続中に、分割出願をするためには、補正ができる期間、即ち、拒絶理由通知を受けねばならない。法改正により、現在では、分割出願は審査に継続中において可能であるが、審判に継続中であっても分割出願ができるのは時期的制限がある。
若し、分割出願が、審判継続中であるときには何時でも可能であるならば、前記のように、例え、審査と審判における拒絶理由を異にしたとしても、再度、権利取得の機会があり、特許出願人の救済措置として機能するので法改正を含めた運用を望む。
弁理士 犬飼 達彦