知的財産の専門家はやはり弁理士ということで、弁理士会東海支部には東海地方の行政機関や公的団体(例えば各県の発明協会や商工会議所など)から、知財関連セミナーへの講師派遣依頼が多く寄せられるようになりました。このため、弁理士会東海支部は昨年度、知的財産支援委員会を新たに立ち上げ、外部団体からの講師派遣の求めに応じて支部所属の弁理士を講師等として派遣する体制を整えました。
このように日本弁理士会は、行政機関等に協力する形で中小企業を支援する活動を行っています。そして、その活動部隊を「中小企業支援キャラバン隊」と呼んでいます。今年度は、各地の商工会議所等にキャラバン隊員を送り込んでいます。
セミナーの主催団体が、予め講演テーマを決めた上で、その講演テーマに沿った講演のできる講師の派遣を依頼してくることが多くなっています。今年度、比較的依頼が多い講演テーマは、中小ベンチャー企業向けの知的財産の活用に関するものです。例えば、「知って得する知的財産の知識と戦略」、「ヒット商品に学ぶ知的財産」、「商工業活性化のための知的財産活用法」といった具合です。
つまり、特許等の知的財産制度を実際の企業経営にどのように活用することができるかといったテーマです。数年前までは、知的財産制度そのものの解説を求められることが多かったと思いますが、最近では、知的財産制度を中小企業の経営にどのように活かすことができるかという点に関心が集まっているようです。
この背景には、中小企業を取り巻く経営環境の変化があるように思われます。例えば、ある商品がヒットして売れ筋商品になったとしても、たちまち競合品が現れたり、模倣品が海外から持ち込まれたりしてマーケットを撹乱されてしまう。何らかの法的手当て無しでは、まっとうな企業活動も単なる徒労に終わる可能性があるというような世知辛さがあるようです。
従来の発想では、知的財産は「万一事が起こった場合の保険」であったと思いますが、最近では、知的財産は「利益確保のための必須ツール」という一歩踏み込んだ捉え方に変わりつつあるように思います。この点に関しては、民間企業、国及び地方公共団体が危機感を共有するようになっており、国及び地方公共団体は「知的財産重視」の方向へ政策的誘導を強めています。行政機関や公的団体による知財セミナーラッシュは、その一つの顕れと言えます。
知財セミナーの形態も多様化しつつあります。1回完結の単発の講義のほかに、複数回連続の講義を企画実行することもあります。単に教養レベルのセミナーでは飽き足らず、法律実務知識レベルのセミナーが要望されるようになってきています。
今すぐ役立つ知識を伝授して欲しいという声が多いようです。また、単に受講者が椅子に座って話を聞くだけでは身に付かないので「演習」を盛り込むこともあります。
演習とは、講義で得た知識が実際どのように役立つのかを体験する参加型授業のようなもので、演習チューターが投げかける問いに対し参加者が自分なりの答えを出し、その後にチューターが多面的な解説を行うといった類のものです。この演習形式の授業はまだ実験段階ですが、知的なゲームとして楽しみながら学んでいただくことができると思います。
日本弁理士会東海支部 知的財産支援委員会
委員長 弁理士 服部 素明
委員長 弁理士 服部 素明