ところが最近では、小中高校大学といった教育機関から特許や著作権に関する講義をしてほしいといった依頼が多数寄せられるようになりました。また、国や県のお役所からは、中小企業活性化のための知的財産セミナーに講師を派遣してほしいといった類の依頼が急増しています。特許や著作権などの知的財産制度は、これまでにないほど全国民的な関心を集めており、弁理士は「広く知財の話ができる専門家」として引っ張りだこです。
このように急増する社会的要請に応えるため、日本弁理士会東海支部は毎年のように組織の拡充を図っています。昨年度は「知的財産支援委員会」が新設されました。この委員会は、中堅からベテランの域に入りかけた弁理士を中心に構成され、主にお役所等の公的機関からの講師派遣依頼に対応しています。
お役所等が主催する知財セミナーが急増している背景には、知的財産を通じた競争力強化という国策が明確に打ち出されたことがあります。当然のことながら、経済産業行政に関わるお役所は以前にも増して知財普及に力を入れ始めています。加えて「知的財産」という時代のキーワードが、従来の枠組みを超えた他省庁の新規参入を刺激した点も見逃せません。
例えば、平成15年度以降毎年、総務省は弁理士会の協力を得て「ITベンチャー知的財産戦略セミナー」と名打った5回連続の講義及び体験実習を全国各地で開催しています。東海地区では、過去3年間に岐阜県大垣市、名古屋市、長野県塩尻市、静岡市の4会場でのべ20日間にわたる講義及び体験実習が行われ、数十人の弁理士が講師及び実習チューターをつとめました(写真はITベンチャーセミナーの様子)。
なぜ総務省かというと、総務省は通信行政を司っており、通信系つまりIT系のベンチャー企業を支援する活動を行っているため、その施策の一環として上記のようなセミナーが企画されたわけです。経済産業系以外のお役所が弁理士会に対し継続的に大規模な講師派遣を要請することは異例なことですが、このような流れがあります。従来は弁理士会とは関わりを持たなかった行政諸機関が、行政サービスに弁理士を活用するといった動きが将来更に拡大するかもしれません。
東海地区の地方自治体では愛知県が最も積極的です。近年、愛知県内の主要都市を毎年一都市ずつ巡回する形で、愛知県、当該市及び弁理士会東海支部が共催するパテントセミナー(連続講義形式)が開かれています。昨年度は愛知県豊田市で5回開催されました。これは、名古屋市に偏在しがちな知財啓蒙活動を地方都市にも出前するという趣旨のものです。愛知県は他の四県に比べて知財啓蒙の密度が高く、愛知県民は他県民に比べて公的な知財サービスに触れる機会に恵まれています。実際、我々弁理士がセミナーの講師や相談会の相談員をやっていて、愛知県のお客様は他県のお客様よりも要求レベルが高いと感じることがあります。
最近ではセミナーの主催団体が参加者一人一人から講義後にアンケートを回収して、毎回の講義の出来栄えを非常に細かく評価するようになりました。主催団体からはアンケートの集計分析結果をいただくこともあり、これが事実上の「弁理士会の成績表」ということになります。概ね好評なことが多いのですが、近頃はどのお役所も市民の反応に非常に神経を尖らせており、アンケートの回答中に不評が目立つと、主催者側から弁理士会に対し手厳しい指摘がなされることもあります。
弁理士会の社会貢献活動はもっぱら個々の弁理士のボランティア精神に依拠したものなのですが、たとえボランティアであっても、興行的成功を得られなければあまり評価されなくなりつつあります。ただ単に知識や情報を生真面目に伝達するだけの専門家では物足りない、といった雰囲気が社会に醸成されてきているようです。大変皮肉なことですが、これも弁理士会が長年知財啓蒙に尽力してきた結果の一つの現れと言えるでしょう。今後、弁理士は「市民の目線に立った知的財産制度の名解説者」としての力量向上を更に求められることになりそうです。
日本弁理士会東海支部 知的財産支援委員会
委員長 服部 素明
委員長 服部 素明