国においては、2002年2月の小泉首相施政方針演説以来、知的財産立国を目指して、知的財産戦略会議発足,戦略大綱決定,知的財産基本法成立,知的財産戦略本部発足,推進計画決定と、矢継ぎ早に施策が打ち出されて参りました。
それに応じて、愛知県では、2003年6月に全国地方自治体に先駆けて愛知県知的財産戦略会議およびそのワーキンググループが設置され、産・学・行政の各界から選任されました戦略会議18名、ワーキンググループ23名の委員による熱心な議論が行われております。また、知的財産制度の啓発を兼ねて、対象一万事業所という大がかりなアンケート調査およびヒアリング調査も実施されました。これらを踏まえて、本年の3月には「あいち知的財産創造プラン」が策定されることになっております。
来年度から実施に移されますが、実施状況をチェックし、必要に応じて対策を講じるための協議会が立ち上げられると伺っております。
日本弁理士会東海支部からは、支部長の松浦と副支部長の私とが、それぞれ戦略会議およびワーキンググループの委員として参加させて頂いておりますが、プランのコンセプトは「知的財産とそれを生み出す技術・技能を大切にする風土が広がり、・・・元気でたくましい地域づくり」とされております。知的財産を大切にすることは一見当たり前で、今更事々しく申すまでもないことのように見えますが、決してそうではないと思います。「知的財産を大切にする」とは、自分の知的財産は勿論、他人のそれも大切にするということであります。よく「強くなければ、優しくなれない」と言われますが、知的財産の世界でも同様であって、多くの場合、自分自身が知的財産の分野で強くならなければ、他人の知的財産を大切にすることはできません。
知的財産の代表格であります特許権を思い浮かべて頂けば、一目瞭然であります。誰かが特許権を持つということは、他の人はその特許権の対象発明の実施を禁止されるということであります。実施許諾を受ければ対象発明を実施することはできますが、実施料の支払いが必要になるのが普通でありますので、その分製品が高くなり、競争に勝つことが難しくなります。彼我の強弱の差が大きければ、実施許諾を受けることすらできず、その業界からの撤退を余儀なくされることさえあります。
「知的財産を大切にする風土づくり」とは、愛知県を、大企業は大企業らしく、また、中小企業は「所詮中小企業だから」などと言わず、それぞれが知的財産分野において強くなり、他人の知的財産を当然に尊重することのできる地域にするということであって、決して容易なことではないのであります。
日本弁理士会東海支部は、東海地方でお世話になっております弁理士のすべてが加入しております団体であり、知的財産の専門家集団であると自負致すとともに、特に産業財産権についての仕事を業として行う専権を与えられている者として、応分の責務も負っていると認識致しております。
小学校から大学までの知的財産教育、また、中小企業から大企業までの知的財産創造,保護,利用の各場面において、愛知県に対しては勿論、今後、同様な施策を講じられるでありましょう静岡,長野,岐阜,三重の各県に対してましても、できる限りの協力をさせて頂き、「東海は知的財産(特許権等権利として確立されたものは勿論、権利として確立されていないものも含めて)を大切にする地域である」と胸を張って言い得るようになりたいものと念願致しております。
日本弁理士会東海支部
副支部長 神戸 典和