東海会の活動について

新聞掲載記事

更新:2005/04/29

まずは登録意匠調査を

1.私がまだ特許事務所の所員だったころのことです。大手自動車メーカーにキャリア等を納めている会社(A社とします)から相談を受けたことがあります。相談の内容は「自動車雑誌を見ていたら今度私共がメーカーに納入予定の自動車用ルーフボックスと形状がよく似たものを偶然見つけた。このままメーカーに納入しても問題はないか。」というものでした。
 雑誌のコピーを見るとなるほど納入予定のルーフボックスと非常によく似ています。私が、(1)納入予定の製品について意匠登録出願はしてあるか、(2)登録意匠の調査はしてあるか、という点について確認をするといずれもしていないということでした。またメーカーに納入する日まであと1月しかないということでした。
 私は内心「これはまずいぞ」と思いながらもとりあえず「自動車用ルーフボックス」について登録意匠の調査をして、自動車雑誌に掲載されていたルーフボックスが登録されているか確認することをアドバイスしました。それで登録されていなければ一応(あくまで一応です。)安心ですが、登録されていたら何らかの対応を取る必要があります。

2.意匠公報を取り寄せて調査をすると案の定自動車雑誌に掲載されていたルーフボックスが意匠登録されていました。意匠権者はB社でした。原簿で確認すると登録料も納付されており意匠権が存在していることは間違いありませんでした。A社がこのままルーフボックスをメーカーに納入すればB社の意匠権を侵害することは明白でした。

3.しかし、他のルーフボックスの登録意匠を見ると結構よく似たもの同士がそれぞれ別の意匠として登録されているのです。別の意匠として登録されているということは、両者は似ていないと判断され、それぞれその製品を製造販売しても意匠権の侵害とならないということです。意匠権は似ている範囲にしか及ばないからです。多数の登録例を見ていくとどのような基準で似ている、似ていないが判断されているかが分かってきます。A社の製品もそのままではB社の意匠権の侵害になるが若干形態を変えれば大丈夫といえそうでした。

4.私は、調査の結果を踏まえA社の方に形態を変更することを勧めました。さらにその変更後のルーフボックスの意匠を意匠登録出願することを勧めました。出願が登録査定となれば他の登録意匠とは似ていないことがわかるし、登録にならなくても製造販売に支障があるかどうかが分かります。A社は私の勧めに従いルーフボックスの形態を変更し、意匠登録出願をしました。後にA社の出願は登録査定となり、B社との間で何もトラブルは生じませんでした。

5.この事例から(1)営業用に製品を製造販売する場合にはその分野の登録意匠の調査をすること、(2)その製品について意匠登録出願をすること、が重要といえます。似ている、似ていないの判断は難しいので専門家である弁理士に相談するのが早道です。また製品の形態に関しては意匠法以外に不正競争防止法も考慮する必要があります。

 

弁理士 神谷 敬二