今回は、自分の会社で新商品(歯ブラシ)を開発し、その名称について商標登録を希望している鈴木さん(架空の人物)が、A特許事務所のA弁理士を通じて商標登録出願するまでの過程を、物語風に説明したいと思います。なお、以下の話におけるA弁理士の対応は一例に過ぎず、全ての弁理士が以下のような対応をとるわけではありませんので、ご留意下さい。
(A特許事務所の会議室にて)
鈴木さん(以下、S)先生、これがわが社で新たに開発した歯ブラシです。この新たな歯ブラシの名称について商標登録を考えておりまして、今日は、そのご相談に伺った次第です。
A弁理士(以下、A) これですか、半年ほど前にお会いしたときにSさんが仰っていた新商品は。・・・ところで、この新商品の名称としてはどのようなものをお考えですか?
S まだ社内で意見はまとまっていないんですが、「□□□」か「☆☆☆」の何れかにしようという話になっています。こちらに示しているように、どちらも少しデザイン化したロゴを考えています。
A 「□□□」か「☆☆☆」ですね。これらの商標からは、それぞれ単独の称呼(呼び方)しか生じませんね・・・
S と言いますと・・・
A いや、商標登録出願の前に、特許庁の電子図書館(IPDL)を利用して、これらの商標と類似する登録商標や出願中の商標が存在するかどうか、予め調査しようと考えておりまして、その調査の際に、商標から生ずる称呼(呼び方)が必要なんです。このような称呼に基づく調査を称呼検索と言うんですが、例えば、アルファベットのみからなる商標等からは複数の称呼(呼び方)が生じ得る場合もありますので、そのような場合には、考えられる全ての称呼について称呼検索を行なうんです。
S 先生は、依頼を受けて商標登録出願する際には、そういった調査を必ずなされるんですか?
A 依頼者の方の事情によりますが、原則として、IPDLを利用した調査は行ないます。ただ、依頼者の方が「とにかく早く出願して欲しい。」と仰る場合には、その方の了解を得て、調査をすることなく商標登録出願をすることもあります。
S その調査の信頼性というのはどれくらいのものなんですか?
A う~ん、難しい質問ですね・・・厳密に言えば、どのデータベースを用いても、類似する商標が発見されなかったからといって、100%大丈夫、つまり、絶対に商標登録を受けることが出来る、とは言い切れないんですよ。例えば、特許庁のIPDLにおいて称呼検索を行なうと、まだ審査が行なわれていない出願中の商標もヒットするんですが、出願した商標の情報がIPDLのデータベースに登録されるまで、多少のタイムラグがあるんです。
極端な例え話をすると、昨日、この「□□□」と全く同一の商標が出願されていた場合に、本日、IPDLにて称呼検索を実行しても、昨日出願された商標「□□□」はヒットしないんです。その他にも、これはIPDLに限った話ではないんですが、商標の情報をデータベースへ登録する際のミスも全くないとは言い切れませんから・・・尤も、出来るだけ精度の高い調査を希望される依頼者の方に対しては、IPDLにおける称呼検索に加えて、民間のデータベースにおける称呼検索も行ないます。
S そうなんですか。「100%商標登録を受けることが出来る。」との調査結果を頂けると、出願する者としては嬉しいんですが、実際のところは難しいですよね。・・・それでは、今回は、特許庁の電子図書館ですか、そちらでの調査をお願いします。
A 分かりました。・・・それと、これらの商標は、この度の新商品である歯ブラシについてのみ使用されるご予定ですか?例えば、今回出願される商標を、Sさんの会社で開発された別の商品に、将来的に使用される予定はございますか?
S 今のところ、そういった案は社内で出ていないんですが、この新商品である歯ブラシの評判が良ければ、これに付随する商品、例えば洗面用具入れ等にも、今回出願する商標を使用したいと考えています。このことが商標登録出願をする際に何か関係があるのですか?
A ええ。商標登録出願をする際には、その商標を使用する商品又は役務(サービス)を指定することが必要なんですが、その商品又は役務の指定は、商標法(商標法施行規則)に規定されている商品及び役務の区分に従って行なう必要があるんです。Sさんが開発された商品「歯ブラシ」は、商品及び役務の区分の「第21類」に属するんですが、「歯ブラシ」という商品は、「化粧用具」という大きな概念の商品に含まれるものです。
この「化粧用具」には、歯ブラシ以外の商品、例えば、Sさんが仰った「洗面用具入れ」や、「あかすり」、「おしろい入れ」等の商品も含まれます。従って、今回の商標登録出願の際に「化粧用具」を指定商品としておけば、「洗面用具入れ」についても使用することが出来るんです。また、商品及び役務の区分における他の類に属する商品又は役務についても、一つの出願で指定することが出来ます。ただし、例えば「化粧用具」を指定商品とした場合、そこに含まれる商品について、一定期間商標を使用しないと、第三者から商標登録の取消審判を請求される場合がありますので、むやみに広い範囲の商品を指定商品とすることはお勧めしません。「化粧用具」の概念の中には、Sさんが製造販売されていない商品も含まれていますから・・・
S それでは、わが社の方で、商標登録出願の際に指定する商品について、将来的なことも踏まえて検討する必要がありますね。
A そうですね。商品が変わることによって、調査の範囲も変わってきますし、手数料も変わってきますので。商品が決まり次第、再度、私へ連絡を頂けますか?御連絡いただいた商品を対象として、これらの商標の調査を行ないますので。
S 分かりました。社の方で、早速、検討したいと思います。ところで、商標登録については、いくらぐらいの手数料が必要なんでしょうか?
A 当所では、特許庁への手数料と当所の手数料を含めまして、出願の際に○○円、拒絶理由に対する応答の際に○○円、登録の際に○○円必要となります(※)。尤も、これは1区分当たりの費用であって、出願が多区分に及ぶ場合には、別料金となります。こちらの料金表を一度御検討いただいて、不明な点があれば、お問い合せ下さい。
(※)弁理士の手数料は弁理士ごとに異なります。
S ありがとうございます。なにせ小さな会社ですので、費用対効果を考えないと。それでは、商品については、明日にでも電話で連絡させて頂きます。
A お待ちしております。
会社に戻ったSさんは、早速、担当者と打ち合せを行ない、その結果、この度の商標登録出願においては、「歯ブラシ」、「洗面用具入れ」及び「電気式歯ブラシ」の各商品を指定商品とすることとなりました。このことを伝えられたA弁理士は、それらの商品を指定商品とする商標であって、商標「□□□」又は「☆☆☆」に類似するものが存在するか否か、特許庁のIPDLにおいて称呼検索したところ、「☆☆☆」については類似する商標が発見されなかったため、その旨をSさんに伝えました。そして、Sさんは、A弁理士に対して、商品「第21類 歯ブラシ,洗面用具入れ,電気式歯ブラシ」を指定商品とする商標「☆☆☆」の出願を依頼し、A弁理士は、○月×日、特許庁に対して商標登録出願を行ないました。