4.直接出願とハーグ出願:どちらを利用すべきでしょうか
直接出願とハーグ出願、いずれも得失がある方法ですので、慎重な検討が必要です。正直なところ、ハーグ出
願を利用できる国・地域数が少ないため(ⅰ)、日本企業における利用度は向上しつつあるものの、決して高く
はありません(表1参照)。日本企業にとり重要な市場でハーグ出願を利用できる国は、アメリカ、欧州共同体、
韓国、シンガポール、オーストラリアなどに限られます(ⅱ)。一方、ハーグ出願を利用することにより、次の
利点を享受できます。また、留意点にも注意する必要があります。以下、利点と留意点を解説致します。
ハーグ出願の利点:
(1)日本特許庁を経由することなく直接WIPO国際事務局へ出願できます(ⅲ)。また、日本の意匠出願若し
くは登録は不要です。
(2)WIPOが定めた区分の範囲であれば、複数の意匠を一つの願書で最大100意匠まで出願できます。
(3)出願の際における国ごとの代理人費用と願書(英語で作成)の翻訳費用が発生しません。
(4)出願人は、国際登録後の各国の最初の審査結果を遅くとも国際公表から6か月若しくは12か月以内に受
けることができ、審査の遅延を避けることができます。
(5)国際公表制度(国際登録から6か月後に公開する仕組み)を利用し意匠を公開することにより、第三者の
意匠登録を排除する安定した公知証拠を得ることができます。
(6)国別の権利維持費の支払いや名義変更手続などが、WIPOに対し一括して行うことができます。
ハーグ出願の留意点:
(1)出願した意匠は、国際登録から6か月後、WIPOのウェッブサイトにおいて公表されます(国際公表)。
しかし、この段階では国毎に意匠権は発生していませんので、模倣品製作の情報を与えることになり、また、
製品発表前に情報が公開されます。その為には、国際公表の延期制度(公表繰延制度)を利用する必要があ
ります。なお、延期制度が利用できない国がありますので注意が必要です(ⅳ)。
(2)各国毎に国内法に基づく審査及び実務が行われるため、各国審査における登録に向けた個別の対応が必要
となることがあります。特に、アメリカは意匠の図面作成方法など独自のルールに従い審査を行いますので、
注意が必要です。
5.最後に~外国への意匠出願を検討中の方へ~
外国で意匠出願を行う場合、出願方法を直接出願とするかハーグ出願とするか、出願国・地域をどこにするか、
登録の見込みはあるか、出願及び登録費用は幾らか等、出願前に検討すべき重要事項が多々あります。一方、意
匠は特許と同様に、一旦公になると事後登録を受けることはできなくなります。そのため、出願手続上の過ちを
避ける必要があります。外国での意匠出願を戦略的かつ円滑に進めるため、読者の皆様が外国での意匠出願を検
討される際は、日本弁理士会東海支部の知的財産相談室を利用されるなど(ⅴ)、専門家を早期に関与させた慎
重な事前検討をご推奨いたします。
(ⅰ)現在の加盟国は、https://www.jpo.go.jp/seido/s_ishou/pdf/hague_teiketsu_fee/fee.pdfをご参照ください。
(ⅱ)現在、中国、カナダ、ロシア、アセアン諸国(シンガポールとブルネイは加盟済)が加盟を検討中です。
(ⅲ)日本特許庁を経由して出願することも可能です。この場合はインターネットではなく紙の願書を提出する
ことになります。
(ⅳ)アメリカ、シンガポールなどは延期制度が利用できません。また、ハーグ出願が延期制度を利用できない
国を含む場合は、延期制度を利用できる国・地域についても公表の延期はできません。
(ⅴ)日本弁理士会東海支部 電話:052-211-3110までお問い合わせください。
弁理士 中村 知公
直接出願とハーグ出願、いずれも得失がある方法ですので、慎重な検討が必要です。正直なところ、ハーグ出
願を利用できる国・地域数が少ないため(ⅰ)、日本企業における利用度は向上しつつあるものの、決して高く
はありません(表1参照)。日本企業にとり重要な市場でハーグ出願を利用できる国は、アメリカ、欧州共同体、
韓国、シンガポール、オーストラリアなどに限られます(ⅱ)。一方、ハーグ出願を利用することにより、次の
利点を享受できます。また、留意点にも注意する必要があります。以下、利点と留意点を解説致します。
ハーグ出願の利点:
(1)日本特許庁を経由することなく直接WIPO国際事務局へ出願できます(ⅲ)。また、日本の意匠出願若し
くは登録は不要です。
(2)WIPOが定めた区分の範囲であれば、複数の意匠を一つの願書で最大100意匠まで出願できます。
(3)出願の際における国ごとの代理人費用と願書(英語で作成)の翻訳費用が発生しません。
(4)出願人は、国際登録後の各国の最初の審査結果を遅くとも国際公表から6か月若しくは12か月以内に受
けることができ、審査の遅延を避けることができます。
(5)国際公表制度(国際登録から6か月後に公開する仕組み)を利用し意匠を公開することにより、第三者の
意匠登録を排除する安定した公知証拠を得ることができます。
(6)国別の権利維持費の支払いや名義変更手続などが、WIPOに対し一括して行うことができます。
ハーグ出願の留意点:
(1)出願した意匠は、国際登録から6か月後、WIPOのウェッブサイトにおいて公表されます(国際公表)。
しかし、この段階では国毎に意匠権は発生していませんので、模倣品製作の情報を与えることになり、また、
製品発表前に情報が公開されます。その為には、国際公表の延期制度(公表繰延制度)を利用する必要があ
ります。なお、延期制度が利用できない国がありますので注意が必要です(ⅳ)。
(2)各国毎に国内法に基づく審査及び実務が行われるため、各国審査における登録に向けた個別の対応が必要
となることがあります。特に、アメリカは意匠の図面作成方法など独自のルールに従い審査を行いますので、
注意が必要です。
5.最後に~外国への意匠出願を検討中の方へ~
外国で意匠出願を行う場合、出願方法を直接出願とするかハーグ出願とするか、出願国・地域をどこにするか、
登録の見込みはあるか、出願及び登録費用は幾らか等、出願前に検討すべき重要事項が多々あります。一方、意
匠は特許と同様に、一旦公になると事後登録を受けることはできなくなります。そのため、出願手続上の過ちを
避ける必要があります。外国での意匠出願を戦略的かつ円滑に進めるため、読者の皆様が外国での意匠出願を検
討される際は、日本弁理士会東海支部の知的財産相談室を利用されるなど(ⅴ)、専門家を早期に関与させた慎
重な事前検討をご推奨いたします。
(ⅰ)現在の加盟国は、https://www.jpo.go.jp/seido/s_ishou/pdf/hague_teiketsu_fee/fee.pdfをご参照ください。
(ⅱ)現在、中国、カナダ、ロシア、アセアン諸国(シンガポールとブルネイは加盟済)が加盟を検討中です。
(ⅲ)日本特許庁を経由して出願することも可能です。この場合はインターネットではなく紙の願書を提出する
ことになります。
(ⅳ)アメリカ、シンガポールなどは延期制度が利用できません。また、ハーグ出願が延期制度を利用できない
国を含む場合は、延期制度を利用できる国・地域についても公表の延期はできません。
(ⅴ)日本弁理士会東海支部 電話:052-211-3110までお問い合わせください。
弁理士 中村 知公