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新聞掲載記事

更新:2004/01/21

特許出願の必要性

 製品の設計、製造、販売に携わっていれば、一度は特許出願をしようかということを考えた経験をもっていることでしょう。しかし、自分の発明を特許出願すべきなのかは誰しも悩むところであります。今回は、特許出願をする判断基準について、発明者と弁理士との間の会話形式で説明します。

Q.今までにない奇抜な発明をしました。特許出願したいと考えているのですが、どうでしょうか。特許権を取ることは名誉ですよね。
A.たしかに、特許を取ることは技術者にとって名誉なことですが、特許を取得するまでには時間もかかるし、お金も必要で、費用と利益のバランスも考えなければなりません。もちろん、特許を取得すれば、特許権は非常に強い権利で他人の実施には極めて有効に機能します。

Q.それでは、どの程度のお金が必要ですか。
A.費用には、弁理士が報酬としていただく代理人費用と特許庁に支払う費用との2種類の費用があります。代理人費用としては、出願時に書類作成のために通常25万円から30万円程度は必要です。簡単なケースと複雑なケースとでは異なりますが。特許庁には、出願時には2万1千円が必要です。

Q.それだけでよいのですか。
A.それだけでは駄目です。特許庁で審査をしてもらうためには、審査請求料として10万円程度が必要です。それから、特許庁の審査段階では、出願人は、多くの場合、拒絶理由通知を受けますので、それに応答するために必要な代理人費用として10万円~20万円程度が必要です。

Q.拒絶理由通知に対しての応答とは何ですか。
A.審査官は、特許出願に係る発明に関連した先行技術文献をサーチし、多くの場合、先行技術文献に記載された発明から容易に思いつく発明だから特許できませんといってきます。これが、拒絶理由通知です。この拒絶理由通知に対して、先行技術文献に記載されていない事項を特許請求の範囲に限定して、審査官に反論します。これが、さきほどの拒絶理由に対する応答であり、手続補正書と意見書を提出することが普通です。

Q.それでは、最初から先行技術文献に記載されていない事項を特許請求の範囲に限定しておけばよいではないですか。
A.そのとおりです。しかし、適切な先行技術文献を見つけることは難しいことです。この先行技術文献のサーチには時間と手間がかかります。専門化に任せることも、自分で特許庁の電子図書館(特許庁のホームページ)を利用して、パーソナルコンピュータでサーチすることも可能です。ただし、なかなか的確な先行技術文献はヒットしないし、全ての先行技術文献をサーチすることは非常に難しいことです。当然にこの先行技術文献のサーチをした後に、自分の発明が本当に新しいものであることを確認したうえで、特許出願をすべきです。発明をしたときには興奮していて、自分だけが発明しているような気になるものです。また、さきほどの特許請求の範囲の限定ですが、最大限に広い権利を取る目的で、権利範囲を決める特許請求の範囲の記載を最初は多少広めにしておくことはよくあります。

Q.それでは、さきほどの手続補正書と意見書を提出すれば、必ず特許は取れるのですか。
A.そうとも限りません。審査官の判断によっては拒絶査定になる場合もあります。拒絶査定とは、審査段階で特許を受けることができないという判断で、この拒絶査定に対しては審判請求をする道も残されています。

Q.それでは、最終的に自分の発明が特許にならなかった場合には、今まで使った費用はどうなるのですか。
A.これらの費用は一切返却されません。ですから、先行技術文献の調査が重要であると同時に、名誉的な側面よりも経済的な側面から出願の是非を決定することが必要です。

Q.それでは、特許を取るまでには、合計でどの程度の費用が必要ですか。
A.さきほどのような費用が累積されるのですが、拒絶理由通知が1回と考えて60万円から80万円程度が必要です。この費用には、特許庁に支払う登録費用(1~3年分の特許料)が含まれているとともに、通常、代理人に対する成功報酬が含まれています。また、特許付与から3年後においても、特許権を維持するためには、毎年、特許料を支払う必要があります。この特許料は、年が経つにつれて高額になります。このように特許を取得するための費用は少なくはありませんから、自分が受ける利益と出費のパランスを考慮して決定して下さい。なお、来年には、さきほどの審査請求料は高くなり、特許料は以前よりも安くなるような料金改定があります。

Q.それでは費用のことは別としても、他に考慮しなければならない点はありますか。
A.考慮すべき点は他にもありますが、重要なことは、自分が実施する発明なのか、単なるアイデアで自分が実施しない発明であるかは考慮しなければなりません。

Q.2つの発明で、どのように異なるのですか。
A.自分が実施しない発明とは、他人に実施許諾を与えて、実施料を他人からいただくのが通常です。この場合、さきほどの特許請求の範囲の広さですが、権利範囲の狭い特許には代替技術が存在し、実施許諾者を見つけることは至難です。理由は、実施許諾者以外の第三者が特許発明と似たような技術を実施しても特許権を侵害しないケースが多いからです。第三者は、特許実施料の支払いを避けるために、代替技術を一生懸命考えるものです。したがって、この場合には、基本的な特許以外は特許権取得の意味が半減します。

Q.では、自分で実施する発明の場合はどうなのですか。
A.自分で実施する場合には、権利範囲が多少狭くても、他人による模倣は避けられます。そして、特許製品であることを主張できますから、宣伝効果として利用することも可能です。

Q.では、特許を取得してしまえば、自分の製品は必ず保護されるのですね。
A.特許権を持っているからといって、必ずしも安心はできません。第三者には、無効審判という制度を利用して特許を無効にできる機会が与えられています。特許が本来与えられるべきでなかった発明は、この制度によって無効となります。

Q.では、自分の製品を特許で保護するためには、どのようにすればよいのですか。
A.なかなか、1件の特許で確実に製品を保護することは難しい場合もあります。複数の特許出願をしたり、場合によっては意匠出願もして、製品を特許、意匠などで包囲しておくことも必要かと思います。しかし、これも費用がかかるものですから、製品によって受ける利益と特許出願の必要性を考えることも重要かと思います。

Q.それでは、このような特許出願の必要性に対しても弁理士は相談にのってくれるのですか。
A.もちろんです。最終的には、自分で決断することですが、特許出願時に弁理士に相談すれば、出願の作戦についてもアドバイスを受けることができます。とにかく、特許出願の前には、先行技術文献を調査するとともに多少冷静になって、特許出願の必要性を判断することが必要です。

弁理士 大庭 咲夫