知財君:最近、我が社の技術を真似ていると思われる製品がアメリカで出回っているとの連絡をアメリカの支社から受けたのですがどうしたらよいですか。
知財弁理士:あなたの会社はその技術について特許出願されていますか?
知財君:はい、日本の特許庁に対して特許出願しました。
知財弁理士:アメリカでは出願していないのですか?
知財君:はい、日本でしか特許出願していません。日本で特許を取得するだけではアメリカでの侵害行為を止められないのですか?
知財弁理士:その通りです。基本的に日本の特許は日本でのみ有効ですから、他の国、例えば、アメリカにおいて日本の特許に基づいて侵害行為を止めることはできません。専門的には「属地主義の原則」といいます。また、ある国の特許が他の国における対応する特許の影響を受けることはありません。これを「特許独立の原則」と言います。
知財君:そうですか。
知財弁理士:ところで、日本に出願したのは何時ですか?
知財君:あと2週間ほどで一年になります。もう遅いですよね。
知財弁理士:いいえ、最初の出願の日から1年以内であれば、他の国に出願する場合に優先権主張を行うことによって、最初の出願の日に出願した出願と同様の取り扱いを受けることができます。これはパリ条約という国際条約によって定められています。具体的にはパリ条約の4条によって規定されています。
知財君:でもアメリカには英語で出願しなければならないのでは?あと2週間では準備が間に合いそうにありません。
知財弁理士:大丈夫です。アメリカには日本語で出願することができます。あるいは、特許協力条約(PCT)を利用すれば日本語で国際出願することができます。
知財君:どう違うのですか?
知財弁理士:外国出願には大きく分けて2つの態様があります。1つ目は各国に直接出願する態様、2つ目は国際出願を経て各国に出願する態様です(表1参照)。
各国に直接出願する場合には、基本的に明細書等の出願書類をその国の言語に翻訳する必要があり、また、各国の特許庁に対する手続きもその国の言語で行う必要があります。
国際出願する場合には、日本の特許庁に対して日本語で出願することができます。ただし、実体的な審査は各国で行われますので、最終的には各国の言語での対応が必要となります。
知財君:よくわからないのですが、メリットとデメリットはどうなりますか?
知財弁理士:色々な例外もありますから一概にはいえませんが、各国へ直接出願する場合には、直ちに現地の特許庁に出願が係属しますので、審査の開始は比較的早いと言って良いと思います。一方で、複数の国に直接出願する場合には、各国の特許庁に対してそれぞれ出願の手続きを行う必要があります。
PCTを利用する場合には、日本の特許庁に出願すれば、複数の出願したい国に対して出願が完了します。つまり、出願の束を日本の特許庁に出願すると思ってもらえれば良いと思います。また、全てのPCT出願は国際調査の対象となり、国際調査報告書を受け取ることができます。したがって、国際調査報告書を受け取った後に、国際調査報告書の結果に応じて請求項の補正を行ったり、出願そのものを取りやめることもできます。また、各国の要求する言語への翻訳も最も早い優先日から20ヶ月もしくは30ヶ月までに提出すれば良いこととなっています。一方で、国際調査報告書の発行を待つ関係で、各国における迅速な権利取得には余り向いてないといえます。
知財君:そうですか。ところで、アメリカには日本語で出願できると言われましたよね。
知財弁理士:そうなんです。いくつかの国では、とりあえず言語にこだわることなく、あるいは、特定の言語については出願を認め(出願日を与え)、後に翻訳文を提出させることによって正規の国内出願としての地位を与える制度を持っています。例えば、アメリカの場合には、英語以外の出願であっても出願日を付与し、概ね2~3ヶ月位後に、翻訳文を提出しなさいと言う通知が送られてきます。また、ドイツでもドイツ語以外による出願が認められています。
知財君:今後のために1つ質問しておきたいのですが、ヨーロッパに出願する場合に、各国毎に出願するのは手間が掛かるのですが、何か良い方法はありませんか?
知財弁理士:ヨーロッパには欧州特許条約(EPC)という条約があり、主立った国が加盟しています。欧州特許条約を利用すれば、ヨーロッパ特許庁(EPO)によって欧州特許出願として審査がなされ、審査の結果、許可されると希望する各国毎に特許を取得することができます。
また、ヨーロッパでは複数の言語が使われていますが、欧州特許条約を利用すれば、英語、フランス語、ドイツ語の中から審査に用いる手続き言語を選ぶこともできます。
知財君:そうですか。その欧州特許条約を利用する場合にも日本語で出願することは可能ですか?
知財弁理士:残念ながら、今のところ認められていません。したがって、PCT経由にてEPCを指定して日本語で出願するしかありません。また、フランスを始めいくつかの国は、PCT経由の場合には、EPCを介した自国の指定しか認めていませんので注意が必要です。つまり、PCT出願の場合には、フランスを直接、出願先とすることができないのです。
知財君:指定国ってなんですか?
知財弁理士:これは失礼しました。PCTやEPCを利用する場合に、これらの条約を介して出願または特許の取得を希望する国を指定する必要があります。このときに指定された国のことを指定国と呼んでいます。
知財君:よくわかりました。早速、社内で検討したいと思います。
知財弁理士:わからないことがあればいつでも質問してください。