1.「知財金融」とは
知的財産を担保にして融資を行う際、または「事業性評価」の判断要素の一つとして取引先企業とのコミュニ
ケーションツールとして用いる際に、取引先企業が保有する知的財産を評価して、これらの金融活動を行うこと
を指して、「知財金融」という用語が最近良く使われています。
「知財担保融資」というような言葉は、以前から、一部の金融機関の固有のサービスとして用いられていまし
たが、最近聞かれる「知財金融」は、新たに改訂された金融庁の「金融モニタリング基本指針」(平成26年9
月)中の「事業性評価」の一つの手段・ツールとして、取引先企業が保有する知的財産の価値を評価して金融を
行う場合の用語として使われています。つまり、これからの金融機関に求められる「事業性評価」の一要素とし
てクローズアップされつつある用語です。
2.「知財金融」がクローズアップされる背景
(1)これまでの動向
これまでには、限られた一部の金融機関(特に、政策金融公庫、商工中金、政策投資銀行などの政府系金融機
関)が知的財産を担保に融資を行うなどの例がありましたが、多くの金融機関で実施されていたのではなく、政
府の施策に沿って実施される政策的な金融商品として行われていた例が多いものと思われます。独自に評価シス
テムを構築可能な一部の都銀も取り扱うこともありましたが、特に地方の金融機関においては、知的財産の評価
にノウハウが無く、以前は独自に取り扱う地方金融機関はほとんどありませんでした。
(2)「事業性評価」が求められる背景
2013年に公表された「日本再興戦略」においては、「中小企業・小規模事業者の革新」がアクションプラ
ンの一つとして掲げられています。このアクションプランの具体的なKPIとして、開業率の向上、黒字中小企
業を2020年までに140万社に増やすこと、今後5年間に新たに1万社の海外展開を実現することなどが明
示されています。
また、これらのアクションプラン実現のために、士業・中小企業等関係団体、地域金融機関などの支援機関が
地域リソースの活用や中小企業の支援を進めることを目指しています。
そして、この中の地域金融機関には、必要に応じて、外部機関や外部専門家を活用しつつ、様々なライフステ
ージにある企業の事業の内容や成長可能性などを適切に評価(事業性評価)した上で、それを踏まえた解決策を
検討・提案し、必要な支援などを行うことを求めています(上記「金融モニタリング基本指針」)。取引先企業
が知的財産権を保有している場合には、このような事業性評価の一つとして保有する知的財産権を適切に評価す
ることが、「知財金融」の前提となります。
3.「知財ビジネス評価書事業」
このような「知財金融」を推進するために特許庁が実施しているのが、いわゆる「知財ビジネス評価書事業」
です(http://chizai-kinyu.jp/)。金融機関の取引先企業について、保有する知財という経営資源がどのように
経営・事業に役立っているかを評価する「知財ビジネス評価書」を、金融機関に代わって「提携調査機関」が作
成し、取引先企業の事業性評価に役立てようとする事業です。金融機関はこの評価書作成サービスを無料で受け
ることができます。
4.知財金融の支え手の一つ、弁理士会「知的財産価値評価推進センター」
弁理士会には、平成17年度より、知財価値評価の手法研究・評価依頼に対する対応・研修説明会の実施など
を事業とする「知的財産価値評価推進センター」が設置されており、この知財ビジネス評価書を作成する「提携
調査機関」の一つとして登録され、一昨年から評価書作成に関与しています。
5.今後の動向
「知財ビジネス評価書事業」は今後しばらく実施され、わが国における知財金融のあり方を検討・検証してい
きます。その間に「知財金融」の標準的な形が整えられていく可能性があることを念頭において、中小企業・地
域金融機関・士業などの中小企業支援団体などは、知財を活かした中小企業経営のあり方を考える際には、この
「知財ビジネス評価書事業」を注視していくことが望ましいと思われます。
日本弁理士会 知的財産価値評価推進センター
弁理士 村山 信義
知的財産を担保にして融資を行う際、または「事業性評価」の判断要素の一つとして取引先企業とのコミュニ
ケーションツールとして用いる際に、取引先企業が保有する知的財産を評価して、これらの金融活動を行うこと
を指して、「知財金融」という用語が最近良く使われています。
「知財担保融資」というような言葉は、以前から、一部の金融機関の固有のサービスとして用いられていまし
たが、最近聞かれる「知財金融」は、新たに改訂された金融庁の「金融モニタリング基本指針」(平成26年9
月)中の「事業性評価」の一つの手段・ツールとして、取引先企業が保有する知的財産の価値を評価して金融を
行う場合の用語として使われています。つまり、これからの金融機関に求められる「事業性評価」の一要素とし
てクローズアップされつつある用語です。
2.「知財金融」がクローズアップされる背景
(1)これまでの動向
これまでには、限られた一部の金融機関(特に、政策金融公庫、商工中金、政策投資銀行などの政府系金融機
関)が知的財産を担保に融資を行うなどの例がありましたが、多くの金融機関で実施されていたのではなく、政
府の施策に沿って実施される政策的な金融商品として行われていた例が多いものと思われます。独自に評価シス
テムを構築可能な一部の都銀も取り扱うこともありましたが、特に地方の金融機関においては、知的財産の評価
にノウハウが無く、以前は独自に取り扱う地方金融機関はほとんどありませんでした。
(2)「事業性評価」が求められる背景
2013年に公表された「日本再興戦略」においては、「中小企業・小規模事業者の革新」がアクションプラ
ンの一つとして掲げられています。このアクションプランの具体的なKPIとして、開業率の向上、黒字中小企
業を2020年までに140万社に増やすこと、今後5年間に新たに1万社の海外展開を実現することなどが明
示されています。
また、これらのアクションプラン実現のために、士業・中小企業等関係団体、地域金融機関などの支援機関が
地域リソースの活用や中小企業の支援を進めることを目指しています。
そして、この中の地域金融機関には、必要に応じて、外部機関や外部専門家を活用しつつ、様々なライフステ
ージにある企業の事業の内容や成長可能性などを適切に評価(事業性評価)した上で、それを踏まえた解決策を
検討・提案し、必要な支援などを行うことを求めています(上記「金融モニタリング基本指針」)。取引先企業
が知的財産権を保有している場合には、このような事業性評価の一つとして保有する知的財産権を適切に評価す
ることが、「知財金融」の前提となります。
3.「知財ビジネス評価書事業」
このような「知財金融」を推進するために特許庁が実施しているのが、いわゆる「知財ビジネス評価書事業」
です(http://chizai-kinyu.jp/)。金融機関の取引先企業について、保有する知財という経営資源がどのように
経営・事業に役立っているかを評価する「知財ビジネス評価書」を、金融機関に代わって「提携調査機関」が作
成し、取引先企業の事業性評価に役立てようとする事業です。金融機関はこの評価書作成サービスを無料で受け
ることができます。
4.知財金融の支え手の一つ、弁理士会「知的財産価値評価推進センター」
弁理士会には、平成17年度より、知財価値評価の手法研究・評価依頼に対する対応・研修説明会の実施など
を事業とする「知的財産価値評価推進センター」が設置されており、この知財ビジネス評価書を作成する「提携
調査機関」の一つとして登録され、一昨年から評価書作成に関与しています。
5.今後の動向
「知財ビジネス評価書事業」は今後しばらく実施され、わが国における知財金融のあり方を検討・検証してい
きます。その間に「知財金融」の標準的な形が整えられていく可能性があることを念頭において、中小企業・地
域金融機関・士業などの中小企業支援団体などは、知財を活かした中小企業経営のあり方を考える際には、この
「知財ビジネス評価書事業」を注視していくことが望ましいと思われます。
日本弁理士会 知的財産価値評価推進センター
弁理士 村山 信義