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新聞掲載記事

更新:2016/07/29

新聞や雑誌記事の社内共有~著作権の観点からの注意点~

   新聞や雑誌の記事は、訃報等の事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道といった例外を除き、著作権法上の
  著作物であると考えられています。この記事では、新聞や雑誌の記事を社内で共有する場合に、著作権の観点か
  ら気をつけたい点を、平成20年2月26日に東京地方裁判所で出された「社会保険庁LANシステム事件」の
  判決を紹介しながら解説いたします。
   この事件では、社会保険庁の職員が雑誌記事を社会保険庁LANシステム中の新聞報道等掲示板にそのまま掲
  載したことが、複製権又は公衆送信権の侵害に当たるかが争われました。同システムは、社会保険庁の全国の関
  連機関をネットワークで接続するシステムで、職員は社会保険庁に関連する新聞や雑誌の記事を複写・掲載して
  いました。
   著作権法上、雑誌記事を電子データ化し、保存する行為は、著作物の複製に当たります。電子データを同一構
  内にない事業所で閲覧可能にする行為は、公衆送信に当たります。したがって、雑誌記事を電子データにし、電
  子掲示板にそのまま掲載したことは、私的使用のための複製等の権利制限規定(著作権法第30条〜第47条の
  10)に当てはまらない限り、複製権と公衆送信権を侵害する行為になります。
   被告となった社会保険庁は、複製行為は前述の権利制限規定の内の、著作権法第42条1項の「行政の目的の
  ために内部資料として必要と認められる場合」に相当し、複製権の侵害には当たらない、と主張しました。公衆
  送信については、同目的以外の目的でされたものでない以上、公衆送信権を害さないと解すべきである、と主張
  しました。
   裁判所は、複製行為については判断しませんでしたが、公衆送信について、著作権法第42条の規定が公衆送
  信を行う権利の侵害行為について適用されないことは明らかである、と判断し、被告による公衆送信権の侵害を
  認定しました。
   新聞や雑誌の記事を社内で共有する場合について考えると、紙媒体の記事をそのまま又は切り取って回覧する
  ことは、著作権法上の侵害にはなりません。しかし、著作権法上の権利制限規定の条件に当てはまらなければ、
  著作権者の許諾なく記事のコピーをとることは複製権の侵害になり、著作権者の許諾なく電子データを同一構内
  にない事業所で閲覧可能にすれば公衆送信権の侵害になります。その記事が自社に関する記事であったとしても、
  著作権が新聞社や出版社にあれば、著作権者の許諾を得る必要があります。

                                          弁理士 藤田 早百合