少し前の話になりますが、テレビドラマ「下町ロケット」(池井戸潤原作)が高視聴率を記録し、一躍社会現
象となりました。中小企業である佃製作所が信念をもって大企業に立ち向かう姿に熱いものを感じた方も多いと
思います。佃製作所が大企業と互角に渡り合うことができたのは、その技術力もさることながら「特許」という
武器を持っていたからです。
佃製作所が所有していたのは水素エンジンのバルブシステムの特許です。極低温の液体水素や液体酸素の流れ
をコントロールする非常に重要な部分ですが、なかなかイメージがわきません。名古屋市科学館に国産ロケット
H-ⅡのメインエンジンLE-7が展示されています(写真はWikipediaより引用)。燃料タンクとエ
ンジン本体をつなぐ配管途中に設けられています。
「バルブシステム」の特許というからには、おそらく複数の部品(バルブやシール部材など)が組み合わさっ
た発明に関する特許と思われます。各部品の組み合わせかたや動きかた、または制御方法などに発明の特徴があ
りそうです。
特許の権利範囲は「特許請求の範囲」という書類に書かれた内容によって決まります。一般的に、書いてある
構成が少ないほうが権利範囲が広く、強い特許になります。例えば「バルブAを有するシステム」、「バルブA
とシール部材Bを有するシステム」という2つの特許があったとします。後者はバルブAとシール部材Bを両方
有するシステムのみが対象となるのに対して、前者はバルブAがあればシール部材Bがあろうがなかろうが特許
の侵害を主張できる点で強いという理屈です。
そうすると、複数の部品が関係する「バルブシステム」よりも、そのシステムを構成する「部品」で特許が取
れると強いということになります。佃製作所も「バルブシステム」の特許に加えて、そのシステムに適した「バ
ルブ」や「シール部材」などの特許も取っていたのではないでしょうか。発明の特徴を主張できる最小限の構成
で特許を取っておきたいところです。
ちなみに、文字数が少ない特許として「揚げ出し卵豆腐およびその製造方法」(特公平7-63335)があ
ります。特許請求の範囲は「卵豆腐を油で揚げてなる揚げ出し卵豆腐。」で19文字しかありません。
居酒屋さんがトッピングを追加して「イタリア風フライド卵豆腐」などと称して提供したとしても、この「揚げ
出し卵豆腐」を作って売った時点で特許の侵害になります。
佃製作所は最終的に自社でバルブシステムの供給をする道を選びました。相手に実施させず自社で独占実施す
るという、独占排他権として王道とも言える選択です。佃製作所は夢を実現するために「特許の譲渡」や「特許
使用(ライセンス)契約」という手段はとりませんでしたが、これらも十分検討に値する選択肢です。特に個人
の方や零細企業では、譲渡やライセンス契約を目指すことも多くなります。
自らの特許を侵害された場合、最終的には訴訟で争うことになります。和解を含む原告(特許権者)の実質勝
訴率は約4割になるとのデータもあります。しかし、大企業相手に勝てるのでしょうか。いわゆる「クリックホ
イール事件」では、実質的に個人の方(齋藤憲彦氏)がAppleを相手に約3億の損害賠償を勝ち取りました。
中小企業が特許を武器に大企業と戦って勝つことは不可能ではありません。
磨き上げた技術には自社のアイデンティティが内在しています。特許を取得する過程で、更なるノウハウや技
術の蓄積や社員のモチベーションアップなどの目に見えない効果もあります。下町ロケットに乗っかって、今一
度自社の技術を見直し、特許という武器を手に入れてみてはいかがでしょうか。
弁理士 伊藤 正典
象となりました。中小企業である佃製作所が信念をもって大企業に立ち向かう姿に熱いものを感じた方も多いと
思います。佃製作所が大企業と互角に渡り合うことができたのは、その技術力もさることながら「特許」という
武器を持っていたからです。
佃製作所が所有していたのは水素エンジンのバルブシステムの特許です。極低温の液体水素や液体酸素の流れ
をコントロールする非常に重要な部分ですが、なかなかイメージがわきません。名古屋市科学館に国産ロケット
H-ⅡのメインエンジンLE-7が展示されています(写真はWikipediaより引用)。燃料タンクとエ
ンジン本体をつなぐ配管途中に設けられています。
「バルブシステム」の特許というからには、おそらく複数の部品(バルブやシール部材など)が組み合わさっ
た発明に関する特許と思われます。各部品の組み合わせかたや動きかた、または制御方法などに発明の特徴があ
りそうです。
特許の権利範囲は「特許請求の範囲」という書類に書かれた内容によって決まります。一般的に、書いてある
構成が少ないほうが権利範囲が広く、強い特許になります。例えば「バルブAを有するシステム」、「バルブA
とシール部材Bを有するシステム」という2つの特許があったとします。後者はバルブAとシール部材Bを両方
有するシステムのみが対象となるのに対して、前者はバルブAがあればシール部材Bがあろうがなかろうが特許
の侵害を主張できる点で強いという理屈です。
そうすると、複数の部品が関係する「バルブシステム」よりも、そのシステムを構成する「部品」で特許が取
れると強いということになります。佃製作所も「バルブシステム」の特許に加えて、そのシステムに適した「バ
ルブ」や「シール部材」などの特許も取っていたのではないでしょうか。発明の特徴を主張できる最小限の構成
で特許を取っておきたいところです。
ちなみに、文字数が少ない特許として「揚げ出し卵豆腐およびその製造方法」(特公平7-63335)があ
ります。特許請求の範囲は「卵豆腐を油で揚げてなる揚げ出し卵豆腐。」で19文字しかありません。
居酒屋さんがトッピングを追加して「イタリア風フライド卵豆腐」などと称して提供したとしても、この「揚げ
出し卵豆腐」を作って売った時点で特許の侵害になります。
佃製作所は最終的に自社でバルブシステムの供給をする道を選びました。相手に実施させず自社で独占実施す
るという、独占排他権として王道とも言える選択です。佃製作所は夢を実現するために「特許の譲渡」や「特許
使用(ライセンス)契約」という手段はとりませんでしたが、これらも十分検討に値する選択肢です。特に個人
の方や零細企業では、譲渡やライセンス契約を目指すことも多くなります。
自らの特許を侵害された場合、最終的には訴訟で争うことになります。和解を含む原告(特許権者)の実質勝
訴率は約4割になるとのデータもあります。しかし、大企業相手に勝てるのでしょうか。いわゆる「クリックホ
イール事件」では、実質的に個人の方(齋藤憲彦氏)がAppleを相手に約3億の損害賠償を勝ち取りました。
中小企業が特許を武器に大企業と戦って勝つことは不可能ではありません。
磨き上げた技術には自社のアイデンティティが内在しています。特許を取得する過程で、更なるノウハウや技
術の蓄積や社員のモチベーションアップなどの目に見えない効果もあります。下町ロケットに乗っかって、今一
度自社の技術を見直し、特許という武器を手に入れてみてはいかがでしょうか。
弁理士 伊藤 正典