1.シンガポールの知財の状況は?一覧記載の特許出願件数から推測すると、同国知財についてご興味をお持ちの
方は多くないかもしれません。しかしながらシンガポールは、従来からの様々な分野でのハブ拠点としての利用
に加え、知財分野においてもハブとなるための整備を進めています。以下、シンガポール知財の現状を、本年1
月に実施した現地調査の結果を踏まえ簡潔にご紹介します。
2.まずIPハブマスタープランについて。シンガポールは、この中で(1)IP取引・管理のハブ、(2)IP
登録のハブ、(3)IP紛争解決のハブになることを掲げています。
「取引のハブ」では、同国での知財取引の活発化・取引市場の確立のため、知財取引業者の誘致・サポートの
実施や投資家への知財の証券化・知財ファンドを利用した多様な資金調達手段の提供を提案しています。次に、
「登録のハブ」では、良質・迅速な審査制度を構築して、ASEAN地域やその他の国へのASPECやPPH
を利用した特許出願の拠点としての利用を促し、知財の出願・登録件数を増やすことを目標にしています(AS
PEC:ASEAN各国特許庁間で調査結果・審査結果を共有し、業務効率化、調査・審査時間の短縮、特許審
査の質の向上を図るプログラム)。
最後に「紛争解決のハブ」について。この中では、迅速かつ効率的なシンガポールの裁判・仲裁や調停制度の
利用を促すため、専門性の高い知的財産権裁判所の設立や知財紛争に関する仲裁・調停等の紛争解決手段を充実
させることを掲げています。実際に、シンガポール国際仲裁センター(SIAC)・国際調停センター(SIM
C)、WIPOの仲裁・調停センターなどの機関が利用されています。
3.一方で、日米欧3極との比較やシンガポールのマーケット規模を考慮すると、同国を知財の拠点として積極的
に活用する状況には未だ至っていないと考えます。また、ASEAN全体を見ても、経済統合の議論は進められ
ていますが、知財に関しては欧州のような統一制度の構築は困難であり、また、ASEAN諸国間での経済的格
差や政治体制の違い、主導権争いから、同エリアは必ずしも一枚岩ではない模様です。
4.但し、上記のような試みの中で、シンガポールには、言語(公用語:英語その他、審査官の35%が中国語を
理解)や地理、データベースや情報開示のインフラ整備、知財関連の各種条約(PCT、ハーグ協定、マドリッ
ド協定議定書)への加盟状況といった面での強みや、昨今では国際調査機関への認定などの良いニュースがある
ことも事実です。同国が今後のアジア地域の知財に影響を与える可能性は十分にあり得ることから、今後も同国
の動向については注目すべきと考えます。
弁理士 前田 大輔
方は多くないかもしれません。しかしながらシンガポールは、従来からの様々な分野でのハブ拠点としての利用
に加え、知財分野においてもハブとなるための整備を進めています。以下、シンガポール知財の現状を、本年1
月に実施した現地調査の結果を踏まえ簡潔にご紹介します。
2.まずIPハブマスタープランについて。シンガポールは、この中で(1)IP取引・管理のハブ、(2)IP
登録のハブ、(3)IP紛争解決のハブになることを掲げています。
「取引のハブ」では、同国での知財取引の活発化・取引市場の確立のため、知財取引業者の誘致・サポートの
実施や投資家への知財の証券化・知財ファンドを利用した多様な資金調達手段の提供を提案しています。次に、
「登録のハブ」では、良質・迅速な審査制度を構築して、ASEAN地域やその他の国へのASPECやPPH
を利用した特許出願の拠点としての利用を促し、知財の出願・登録件数を増やすことを目標にしています(AS
PEC:ASEAN各国特許庁間で調査結果・審査結果を共有し、業務効率化、調査・審査時間の短縮、特許審
査の質の向上を図るプログラム)。
最後に「紛争解決のハブ」について。この中では、迅速かつ効率的なシンガポールの裁判・仲裁や調停制度の
利用を促すため、専門性の高い知的財産権裁判所の設立や知財紛争に関する仲裁・調停等の紛争解決手段を充実
させることを掲げています。実際に、シンガポール国際仲裁センター(SIAC)・国際調停センター(SIM
C)、WIPOの仲裁・調停センターなどの機関が利用されています。
3.一方で、日米欧3極との比較やシンガポールのマーケット規模を考慮すると、同国を知財の拠点として積極的
に活用する状況には未だ至っていないと考えます。また、ASEAN全体を見ても、経済統合の議論は進められ
ていますが、知財に関しては欧州のような統一制度の構築は困難であり、また、ASEAN諸国間での経済的格
差や政治体制の違い、主導権争いから、同エリアは必ずしも一枚岩ではない模様です。
4.但し、上記のような試みの中で、シンガポールには、言語(公用語:英語その他、審査官の35%が中国語を
理解)や地理、データベースや情報開示のインフラ整備、知財関連の各種条約(PCT、ハーグ協定、マドリッ
ド協定議定書)への加盟状況といった面での強みや、昨今では国際調査機関への認定などの良いニュースがある
ことも事実です。同国が今後のアジア地域の知財に影響を与える可能性は十分にあり得ることから、今後も同国
の動向については注目すべきと考えます。
弁理士 前田 大輔