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新聞掲載記事

更新:2016/01/29

知的財産権と契約

 きちんと契約を締結すること、そして、それを守ること。知的財産権契約に限らず、契約一般について重要なポイ
ントです。実は、この当たり前のことが、意外となされていないケースが多いのです。

 1 契約を締結すること
   契約交渉が完了しないうちに取引が開始されるのはよくあることです。契約を締結する際に、日付を遡って記
  入することも(お奨めはしませんが)、よくあることです。しかし、契約書(案)は相互に何度も交換されるも
  のの、いつまで経っても契約締結まで完了せず、そのまま半ば棚上げになってしまうことも少なくありません。
  お互い、「ここまで詰めたのだから合意できているだろう」と考えてしまうのでしょうか。ところが、この状態
  では、紛争が生じたときに、「契約内容」を主張することは難しくなります。やはり、契約書の作成は完結させ
  るべきです。
 2 契約を守ること
   また、契約書の作成までは完了しているものの、契約内容が全く遵守されていないケースも見られます。例え
  ば、契約書では発注書や納品書が交わされることになっているのに、実際には、電話連絡だけで済ませているケ
  ースや、共同開発の仕様は開発会議で定めることになっているのに、実際には担当者間のメールのみで、なし崩
  し的に開発が進められるケースです。これらのケースでも、紛争が生じたときに「契約内容」を主張することは
  難しくなります。契約書には、「理想」だけを書くのではなく、実際の取引を踏まえた内容を記載することが大
  切です。

 次に、知的財産を保護する上で重要な秘密保持契約と共同研究・共同出願契約について説明します。

 3 秘密保持契約
   秘密保持契約は、共同開発などの当事者が、お互いに開示した情報の秘密を守ることを約束するものです。
  「秘密を第三者に開示・漏えいしてはならない」という内容が主となりますが、目的外に使用してはならないと
  いう点も大切です。共同開発の相手だからといって、開示した情報が共同開発と関係ない技術開発などに自由に
  使われては困りますよね。
   また、「第三者」という用語も要注意です。相手方は、子会社などの関連会社は「第三者」に含まれず、情報
  を開示しても構わないと考えているかも知れません。関連会社も第三者に含まれることを明確にしておいた方が
  良いでしょう。
   実は、秘密保持契約に基づいて相手方に損害賠償を請求することは簡単ではなく、その意味で、この契約は秘
  密を保持するために万全とは言えません。しかし、だからといって秘密保持契約も締結せずに情報を開示してし
  まえば、その情報について何の保護も主張できません。やはり秘密保持契約は共同開発などを進める上で最低限
  必要な契約と言えるでしょう。
   秘密保持契約の効果を十分に得るためには、内容もさることながら、その運用が大切です。契約は、会社の法
  務部などが担当して締結することが多いかと思いますが、実際に秘密情報を扱うのは開発担当部署ですから、せ
  っかく契約を締結しても、開発担当者にその内容が伝わっていないようでは、その効果は期待できません。開発
  担当者に誓約書を書いてもらうなど、契約内容がきちんと遵守されるような運用を図るべきです。また、意外と
  情報を開示する側にとって、守るべき「秘密」が明確になっていない場合も少なくありません。保持すべき秘密
  が明確に示されないと、相手方としても何が秘密なのか分かりません。
 4 共同研究・共同出願契約
   共同研究によって生まれた発明などの知的財産については、通常、共有とする旨の契約が締結されます。しか
  し、共同でなされた発明は共同出願しなくてはなりません。また、特許権が共有となった場合には、実施権の許
  諾などにおいて共有者の同意が必要になるなど、制約が生じます。できれば成果は単独で所有できるに越したこ
  とありません。共同の成果と単独の成果とをきちんと区別し、自社のみでなし得た成果は、できるだけ単独所有
  にするようにしましょう。

 契約というと、つい契約書に記載する文言ばかりがポイントと考えがちですが、契約書を活かすための運用も重要
です。十分検討した契約を、丁寧に運用することで、自社の知的財産の保護に活用して下さい。

                                       弁理士・弁護士 加藤 光宏