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新聞掲載記事

更新:2015/06/30

特許トラブル事例~よくある失敗事例(おカネのこと)~

   中小企業のオヤジさんを対象に、特許に纏わるおカネの話しをいたします。「特許にはカネがかかる」といわ
  れますが、オヤジさんのレ○サスに比べれば安いものです。経年劣化もいたしません。
  (1)特許はとれたけど……
   ・失敗例1
    特許事務所を使わず、自社出願などで、安くあげました。ここで考えていただきたいのは特許出願の目的で
   す。特許権を得ること自体ではなく、ライバル会社にマネさせないようにすることが本来の目的です。ライバ
   ル会社はウの目タカの目で貴社の特許を解読し、抜け道を探します。そのときに、貴社の特許出願が耐えられ
   るでしょうか?特許はプロの世界です。安くあげた特許出願(よくあるのは実用新案登録出願)の抜け道を探
   すのは赤子の手を捻るより簡単です。つまり、「安物買いの銭失い」の典型です。
   ・失敗例2
    自社関連の技術に一家言を持つオヤジさんが異分野を眺めてみました。技術に長けたオヤジさんですので、
   誰もがうなるアイデアを出しました(岡目八目といい、実はよくあるパターンです。)。このアイデアを特許
   化したら誰かが使ってくれるかと目論み、特許出願をしました。全くの無駄です。その異分野に生息する中小
   企業のオヤジがカネを払わないことは、わが身に照らせばおわかりかと思います。大企業もしかりです。担当
   者の仕事がなくなりますから。
   以上のパターンでは、特許は一応の形になりますので、特許証を社長室に飾ることはできます。
   ・失敗例3
    昔はIPDL、今はJ-PlatPatという無料の特許検索エンジンが提供されるようになり、その使い勝手も随分向
   上しましたのでパソコン得意のオヤジさんであれば簡単に先行する特許、実用新案の調査ができます。調査し
   たところ自分のアイデアが無いことがわかりました。特許出願もしましたので、製造販売に取り掛かりました。
   オヤジさんはその道のプロですから、プロの特許サーチャーが検索してもおそらく同じ調査結果となったでし
   ょう。ただ、製造販売の対象においてオヤジさんのアイデア以外の部分は大丈夫ですか?その部分は昔からあ
   ったといっても、特許は出願から20年は生きられます。コモディティ=特許なしとはいえません。後発品の
   製造開発であれば、特許切れした20年前の技術の利用が安全です。20年前の特許出願にはバブルのエキス
   を十分にすった素晴らしい技術が埋もれているかもしれません。
   以下は、失敗例とは言えませんが、知っておきたい裏ワザです。

  (2)裏ワザ1
    技術開発に熱心なオヤジさんはモノ補助、サポイン等の補助金を利用します。補助金を使い特許出願をしま
   した。これはこれで上手くされたと思いますが、特許権を得るまでには後日(補助金期間後)に多くの費用が
   かかります。これがなかなかシンドイものです。ここで注目すべきは、補助金の知財費目に中間処理も含まれ
   ていることです。逆にいえば、補助金が利用できるうちに特許を取り切ってしまえば良いわけです。早期審査
   制度を利用すれば、出願後3か月程度で審査結果を得ることができます。海外にも早期審査制度がありますの
   で、それを積極的に利用して補助金の期間内で可能な限り特許の手続きを進め、できれば特許を取ってしまい
   ます。他方、特許が取れないことが判明してしまうこともありますが、それはそれで事業性を判断できますの
   で、良いことではないでしょうか。補助金申請において知財費用を計上する際は上記を踏まえて弁理士に相談
   ください。特に海外での特許取得に効果がでます。

  (3)裏ワザ2。
    オヤジさんの宝物の技術に関して特許が取れました。喜ばしいことです。これでライバル会社もマネできな
   いはずだ、ライバル会社がマネしてきたら訴えてやる。チョット待ってください。その気合は大切ですが訴訟
   にいくらかかるかご存じですか?訴訟費用よりも訴訟に要する時間が大変です。その間に他の社業がおろそか
   になってしまいます。具体的なお金に換算できませんが、特許出願費用の数十倍に相当するでしょう。勿論、
   ヤルときはヤラなければなりません。その気合が無ければナメられますから。
    ライバル会社からみると登録された特許はその内容が確定していますので解読が容易です。現実的かどうか
   は別として回避策を見つけられます。特許自体を無効にできる可能性もあります(統計的には、ライバル会社
   とガチンコで勝負したとき約40%の特許が無効にされています)。これに対し、出願中の方が厄介です。特
   許の内容が確定していないので、回避策が有効か否か決めかねるからです。
    そこで、宝物の特許が成立したときは、分割出願されることをお勧めします。一つにはライバル会社の回避
   策に対するカードです。二つには気合です(こちらが重要です)。分割出願をみたライバル会社はオヤジさん
   の気合いを感じます。私がライバル会社の代理人であればヤバいと感じ、分割出願の結果がでるまでは静観す
   るようにライバル会社のオヤジさんに進言するでしょう。保険として考えたとき、宝物の特許を得た後の分割
   出願は、大変お買い得です。

                                           弁理士 小西 富雅