東海会の活動について

新聞掲載記事

更新:2015/05/29

平成26年度特許委員会の活動について

 1.委員会のテーマ
   昨年度の特許委員会では、「記載要件等を満たす、満たさないの境界線に関する情報の提供」をテーマに選び、
  最近の判例の中からこのテーマと関連性のあるものを数十件抽出し、検討しました。

 2.記載要件って?
   特許を取得する上で重要なのは、審査にパスするかどうかです。審査にパスするための要件はいくつかありま
  す。そのうちの一つが記載要件です。記載要件とは、その発明が明確に記載されているかとか、他人がその発明
  を実施できるように記載されているかとか、発明の範囲が広すぎないかとかいったことです。特許制度は、新し
  い発明を公開する代わりに、自分だけ使用でき他人を排除できるという強力な特許権を与える制度です。そのた
  め、新しい発明が公開されたとしても、記載要件を満たしていないものは、他人が理解したり実施したりできな
  かったり権利範囲が不当に広かったりするため、第三者に不利益が及びます。それを回避するために、記載要件
  が課されています。

 3.検討した判例から
   今回検討した判例の中から、記載要件が認められなかった例をいくつか挙げてみましょう。
   渋みのある飲み物にある成分を甘味を呈さない量用いること、という発明が出願されました。しかし、甘みを
  呈するか否かは人の感覚によるため明確に記載されているとはいえない、と判断されました。確かに、経験上も、
  自分は甘いと感じたのに他の人は甘くないと感じることってありますよね。そのため、このように判断されたと
  しても仕方ないかと思います。
   また、Aの粉末と、Bの粉末とを共に10μm以下の平均粒子径としてなる混合物、という発明が出願されまし
  た。一見すると、数値範囲が記載されているため明確なようにみえます。しかし、実は、世の中には平均粒子径
  の測定方法が複数存在し、どの測定方法で測定したかによって同じ粉末を測定しても異なる数値になるというこ
  とがよく知られています。この出願では、平均粒子径の数値範囲が記載されているだけで、どのような測定方法
  で測定したか記載されていませんでした。そのため、発明が明確でないと判断されました。

 4.教訓
   せっかく良い発明をしても、記載の仕方がまずいと特許が認められないことがあります。明細書や特許請求の
  範囲を記載するときには、こうしたことに十分注意してほしいと思います。

                               平成26年度特許委員会 弁理士 田中 敏博