1.はじめに
2015年4月1日から、音や色彩など(※1)を特許庁に商標登録できることになりました。これは商標法
という法律が改正されたことによりますが、実際に登録制度がスタートしたものの、どのようなことを事前検討
しなければいけないのか。また、実際に登録できるのであろうか、等々不安が尽きないと思います。そこで、今
回は特許庁が公表した運用ルールを参考に、「そもそも登録できるのか」という不安にお答えしたいと思います。
商標は「物言わぬセールスマン・セールスウーマン」と言われます。例えば、皆さんが海外旅行に出かけ歩き
疲れ、喉の渇きを癒そうとします。しかし、付近のコンビニで売っているドリンクは、見たことのない現地飲料
メーカーのラベルが表示されています。さて、みなさんはどうされますか?おそらく、日本で飲んだことのある
赤地のラベルに「○○コーラ」と書かれた飲料を購入すると思います。これは、記憶に残っているラベルの飲料
であれば、国が異なれど日本で飲んだ飲料と同じ味と香りを楽しむことができるという判断を、無意識に行って
いるからです。一方、そのラベルに単純に「炭酸飲料」と書かれていては、その飲料は購入しないでしょう。ど
んな味なのか、香りなのか、「炭酸飲料」というラベルからは読めないからです。そこで、法律は「物言わぬ・・・」
の役割を発揮できる商標を登録し、できないものは登録を認めない仕組みにしました。また、特許庁の審査官と
いう商標審査の専門家が、この役割の有無を職権で審査します。
2.音と色彩等の商標
音や色彩の商標も「物言わぬセールスマン・セールスウーマン」の役割が必要です。昭和の時代、あるラッパ
の音色を聴きますと、「夜鳴きそばの屋台を引いたあのオジサンが今日も来た」と、お腹を空かした子供心にわ
くわくしたものです。その後、隣町に引っ越して同じラッパの音色を聴きラーメンの丼ぶりを抱えて屋台に走っ
たら、ちがうオジサンだった、なんてことがありました。このことは、このラッパの音色は「ラーメン屋台の音
の商標としてはありふれており、どこの屋台なのか判別できない」ということに他なりません。そのため、商標
登録はできません。一方、動物のぬいぐるみがラインダンスを踊りながら「カステラ一番、電話は二番、三時の
おやつは○○○」という音色と歌詞を聞けば、即座に○○○のカステラだと子供ながらに記憶してました。
これはこの音色と歌詞を聞けば、特定の和菓子メーカーの商品を認識していることに他なりません。色彩商標
の場合も同じです。例えば、お饅頭に「赤と白」の色彩を付す場合はどうでしょうか。お祝いごとの祭事のとき
に配るのは「紅白饅頭」です。そのため、お饅頭と赤白の組み合わせは、一般的に採用する色彩の組み合わせで
あることが明らかです。この場合は、赤と白がお饅頭について「物言わぬセールスマン・セールスウーマン」の
役割を発揮することはありません。色彩の商標については、原則的に登録に必要な識別の役割を持たないとされ
ています。
3.最後に
登録できる商標の種類が増えたことは、マーケティングの方法が多様化している昨今嬉しいことです。しかし、
「物言わぬセールスマン・セールスウーマン」の役割がない音や色彩等を登録しても他の同業者の事業が滞るだ
けです。商標法はそのようなバランスを考慮して仕組みを作りました。音や色彩等の商標登録は、拙速になるこ
となく、専門家である弁理士への事前相談をお勧めします。日本弁理士会東海支部の発明相談等を是非ともご利
用ください。(※2)
なお、特許庁の審査における詳しい運用については、「商標審査基準」をご参照ください 。(※3)
現在の運用では、音や色彩など新タイプの商標が「物言わぬセールスマン・セールスウーマン」の役割がある
かについては、次のように考えています。
(1)「動き商標」、「ホログラム商標」、「位置商標」を構成する文字や図形等が自他商品・役務の識別力を
有しない場合には、原則として、商標全体としても自他商品・役務の識別力を有しない(=物言わぬセール
スマン・セールスウーマン」の役割はない)。
(2)色彩のみからなる商標は、原則として、自他商品・役務の識別力を有しない(=物言わぬセールスマン
・セールスウーマン」の役割はない)。
(3)商品が通常発する音、単音、自然音を認識させる音、楽曲としてのみ認識される音等の要素からなる「音
商標」については、原則として自他商品・役務の識別力を有しない(=物言わぬセールスマン・セールスウ
ーマン」の役割はない)。
(※1)音や色彩の他に、「文字や図形の動き」「図形等の位置」「ホログラム」も、新たに商標登録の対象に
なりした。
(※2)連絡先 日本弁理士会東海支部 TEL:052-211-3110
○http://www.jpaa-tokai.jp/activities/consultation/index.html
(※3)特許庁ホームページ
○http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/syouhyou_kijun.htm
弁理士 中村 知公
2015年4月1日から、音や色彩など(※1)を特許庁に商標登録できることになりました。これは商標法
という法律が改正されたことによりますが、実際に登録制度がスタートしたものの、どのようなことを事前検討
しなければいけないのか。また、実際に登録できるのであろうか、等々不安が尽きないと思います。そこで、今
回は特許庁が公表した運用ルールを参考に、「そもそも登録できるのか」という不安にお答えしたいと思います。
商標は「物言わぬセールスマン・セールスウーマン」と言われます。例えば、皆さんが海外旅行に出かけ歩き
疲れ、喉の渇きを癒そうとします。しかし、付近のコンビニで売っているドリンクは、見たことのない現地飲料
メーカーのラベルが表示されています。さて、みなさんはどうされますか?おそらく、日本で飲んだことのある
赤地のラベルに「○○コーラ」と書かれた飲料を購入すると思います。これは、記憶に残っているラベルの飲料
であれば、国が異なれど日本で飲んだ飲料と同じ味と香りを楽しむことができるという判断を、無意識に行って
いるからです。一方、そのラベルに単純に「炭酸飲料」と書かれていては、その飲料は購入しないでしょう。ど
んな味なのか、香りなのか、「炭酸飲料」というラベルからは読めないからです。そこで、法律は「物言わぬ・・・」
の役割を発揮できる商標を登録し、できないものは登録を認めない仕組みにしました。また、特許庁の審査官と
いう商標審査の専門家が、この役割の有無を職権で審査します。
2.音と色彩等の商標
音や色彩の商標も「物言わぬセールスマン・セールスウーマン」の役割が必要です。昭和の時代、あるラッパ
の音色を聴きますと、「夜鳴きそばの屋台を引いたあのオジサンが今日も来た」と、お腹を空かした子供心にわ
くわくしたものです。その後、隣町に引っ越して同じラッパの音色を聴きラーメンの丼ぶりを抱えて屋台に走っ
たら、ちがうオジサンだった、なんてことがありました。このことは、このラッパの音色は「ラーメン屋台の音
の商標としてはありふれており、どこの屋台なのか判別できない」ということに他なりません。そのため、商標
登録はできません。一方、動物のぬいぐるみがラインダンスを踊りながら「カステラ一番、電話は二番、三時の
おやつは○○○」という音色と歌詞を聞けば、即座に○○○のカステラだと子供ながらに記憶してました。
これはこの音色と歌詞を聞けば、特定の和菓子メーカーの商品を認識していることに他なりません。色彩商標
の場合も同じです。例えば、お饅頭に「赤と白」の色彩を付す場合はどうでしょうか。お祝いごとの祭事のとき
に配るのは「紅白饅頭」です。そのため、お饅頭と赤白の組み合わせは、一般的に採用する色彩の組み合わせで
あることが明らかです。この場合は、赤と白がお饅頭について「物言わぬセールスマン・セールスウーマン」の
役割を発揮することはありません。色彩の商標については、原則的に登録に必要な識別の役割を持たないとされ
ています。
3.最後に
登録できる商標の種類が増えたことは、マーケティングの方法が多様化している昨今嬉しいことです。しかし、
「物言わぬセールスマン・セールスウーマン」の役割がない音や色彩等を登録しても他の同業者の事業が滞るだ
けです。商標法はそのようなバランスを考慮して仕組みを作りました。音や色彩等の商標登録は、拙速になるこ
となく、専門家である弁理士への事前相談をお勧めします。日本弁理士会東海支部の発明相談等を是非ともご利
用ください。(※2)
なお、特許庁の審査における詳しい運用については、「商標審査基準」をご参照ください 。(※3)
現在の運用では、音や色彩など新タイプの商標が「物言わぬセールスマン・セールスウーマン」の役割がある
かについては、次のように考えています。
(1)「動き商標」、「ホログラム商標」、「位置商標」を構成する文字や図形等が自他商品・役務の識別力を
有しない場合には、原則として、商標全体としても自他商品・役務の識別力を有しない(=物言わぬセール
スマン・セールスウーマン」の役割はない)。
(2)色彩のみからなる商標は、原則として、自他商品・役務の識別力を有しない(=物言わぬセールスマン
・セールスウーマン」の役割はない)。
(3)商品が通常発する音、単音、自然音を認識させる音、楽曲としてのみ認識される音等の要素からなる「音
商標」については、原則として自他商品・役務の識別力を有しない(=物言わぬセールスマン・セールスウ
ーマン」の役割はない)。
(※1)音や色彩の他に、「文字や図形の動き」「図形等の位置」「ホログラム」も、新たに商標登録の対象に
なりした。
(※2)連絡先 日本弁理士会東海支部 TEL:052-211-3110
○http://www.jpaa-tokai.jp/activities/consultation/index.html
(※3)特許庁ホームページ
○http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/syouhyou_kijun.htm
弁理士 中村 知公