日本弁理士会東海支部では、既に本紙でお伝えしましたように本年の1月31日に「タイの知財丸わかり」と
題して支部設立記念セミナーを行いました。本紙による広告掲載のご協力により当日は356名もの多くの方に
ご参加頂き、アンケートの結果も好評でセミナーを成功裡に終えることができました。そこで、好評を頂いたセ
ミナー発表内容のエッセンスを、以下、当日ご参加頂けなかった読者の皆様にお届けします。
タイの知財制度のエッセンス
1.特許
(1)出願公開日不定
・日本では原則として出願日から1年6月で出願公開されます。しかしタイでは出願公開の時期は不定で
す。早いものでは出願日から数か月後、遅いものでは数年後になります。したがって、先行特許調査を
行った場合に、数年たってもデータベース上で内容がチェックできない出願が結構多くあります。
(2)発明特許の審査
・実体審査の審査請求は出願公開後5年の間に行う必要があります。前述のように出願公開日が不定です
から、審査請求可能な期間を徒過しないように注意する必要があります。通常は現地代理人から出願公
開前に公開のための費用請求を知らせてきます。その後、出願公開日や審査請求期間についても知らせ
てきますから、現地代理人任せにせず、こちらでも期間徒過をしないように気を付けましょう。
・関連外国出願がある場合には審査経過や審査結果(拒絶理由通知、意見書・補正書、特許証等)を提出
する必要があります。これをしないと審査は進みません。できれば日米欧のいずれかの審査結果を出す
のがベストです。タイ出願の特許請求の範囲を、外国で審査され特許された請求の範囲に合わせる補正
をすると比較的スムーズに特許されます。
(3)意匠
・意匠法で規定されている日本とは異なり、意匠は意匠特許として特許法の中で規定されています。
・審査請求は必要ありません。形式的ですがクレームの記載が必要です。また、原則として六面図+斜視
図の7図面を提出する必要があります。
・権利存続期間は出願日から10年です。日本より相当短いので注意が必要です。
(4)小特許
・タイにも日本の実用新案と同様の小特許というものがあります。ただし、保護対象が日本よりも広く、
方法や物質も保護対象となります。
・登録要件も日本と異なり、新規性のみで、進歩性は必要ありません。したがって、権利化後に無効にさ
れ難いということになります。
・無審査で登録になりますから、権利化までが発明特許よりも早いです。
・ただ、存続期間は発明特許の出願日から20年に比して、出願日から最大10年と短く、請求項数も1
0以下に限定されています。
・その名の通り、簡単な発明を簡易に保護するというのが趣旨です。
・無審査ですから権利行使のためには、特許発明と同じく日米欧いずれかの審査結果を得ておいた方が良
いです。審査結果は新規性さえあれば譬え進歩性で拒絶されていても良いということになります。
(5)ライセンス登録義務
・ライセンス契約は登録をしないと特許が取り消されることが有ります。特に外国企業との間でライセン
ス料が過大に規定されている等の契約内容を政府がチェックするためです。
(6)出願戦略
・新規性・進歩性を考えて出願戦略を練るというよりは、他国で権利化されたものを、いかに早期にタイ
でも権利化するかが重要です。
・その意味で、日本出願について早期審査を受けて早期に権利化して審査結果を保持し、当該日本出願に
基づく優先権を主張したPCT出願でタイに移行するのが一案です。パリルートによるタイ出願の場合
よりもPCT出願によれば出願公開は一般的に早くなるので、日本の審査結果と共に審査請求を行うこ
とによって、比較的早期に特許取得が可能になります。
2.商標
(1)保護対象
・文字図形等に限らず、いわゆる立体商標も保護対象になります。音や臭い等は保護対象になっていま
せん。
せん。
(2)出願
・多区分一出願は認められておらず、区分ごとに出願する必要があります。また、商品や役務の包括記載は
できず、日本の類似商品役務審査基準の中位概念程度の具体的な商品・役務を指定する必要があります。
そして、指定商品・役務の数で出願登録費用が加算されます。
・識別力
商標の識別力について、日本より厳しい審査が行われています。したがって、普通名詞を含む商標につい
ては注意が必要です。普通名詞について権利不要求(ディスクレーム)することはもちろん、普通名詞は
商標にできる限り付加しない、あるいは小さく記す等の対策が必要です。迷った場合は必ず現地代理人の
意見を聞くようにします。
(3)権利存続期間
・出願日から10年です。更新が可能です。
(4)ライセンス登録義務
・商標ライセンス契約は登録しなければいけません。登録しないと使用権者の使用が、商標の使用義務を果
たしていないとされる場合があります。
(5)未登録周知商標記録制度
・未登録の周知商標については他人の登録阻止および迅速な救済を行うために記録制度がありますが、現在
記録作業が中断しています。したがって、周知商標も極力出願して他人の登録や侵害を未然に防止する必
要があります。
3.権利行使
(1)管轄
・知的財産の争いは専門裁判所(CIPITC)が専属管轄として第一審となります。最高裁が第二審とな
り、2審制で行われます。
(2)事件
圧倒的に商標の刑事事件が多いです。
a.刑事手続き
・商標の模倣等簡単な事件で多用されています。
・警察による手入れが行われます。
・費用が安く審理期間も短いです(7~8か月)。
・タイでは権利者が検察官と共に共同原告になれます。
・被害に対する経済的補償の請求も可能です。
b.民事手続き
・特許権侵害等の複雑な案件で使用されます。
・証拠書類が大量で審理期間が長く(2~3年)、コストも高いです。
・将来的な侵害行為を規制する差止命令を求めることができます。
(3)税関水際措置
・商標、著作物については差止等のための通則があり、税関は主にこれらの権利の侵害品(模倣品、
海賊品)の輸入差し止め等を行います。
海賊品)の輸入差し止め等を行います。
・特許・意匠は通則がなく一般的には取締の対象とされていません。
4.総合知財戦略
(1)早期権利化・早期権利行使を狙いたい場合
・わかりやすい権利(形状的な小特許、意匠、商標)を取って、刑事事件で解決します。
(2)あくまで技術思想を保護したい場合
・小特許の活用を考えてみます。
(3)長期にわたって技術保護を図りたい場合
・特許出願をするしかありませんが、登録までに4〜6年くらいは見ておく必要があります。既述の特許
の項の出願戦略を参照してください。
平成25年度東南アジア知財委員会 弁理士 守田 賢一