日本弁理士会東海支部は、支部開設日を記念して平成26年1月31日に、「知的財産セミナー2014」を
開催した。本年は「タイの知財丸わかり~タイにおける特許、商標、権利行使、およびインドネシアの知財制度
概要~」をテーマに、タイを中心とした東南アジアの知的財産制度が紹介された。
昨今、タイを中心とした東南アジアは東海地区に関連の深い自動車産業において重要な生産拠点となりつつあ
るだけでなく、日本製品の市場として高い将来性を期待されている。このような状況の下、日本弁理士会東海支
部では平成25年度に東南アジア各国の知財制度について研究する東南アジア知財委員会を立ち上げ、タイを中
心に現地特許事務所の協力を受け、現地視察も行いその知財制度を1年にわたり研究した。今回の知的財産セミ
ナーでは、その研究成果の発表がなされると共に、タイ・インドネシアの弁護士を招いたパネルディスカッショ
ンが行われ、東南アジアの知財を取り巻く現状を実感できるセミナーとなった。
1.タイ、インドネシアの知財動向
第1部は、東南アジア知財委員会委員長である守田賢一弁理士をモデレーターに、タイよりファブリス・マッ
ティ氏及びドゥアンハッタイ・ペントラクーン氏、インドネシアより、キン・ワー・チョウ氏の3名の弁護士を
ゲストパネリストとして招き、タイ・インドネシアの知財の動向が紹介された。
まず、知財システムのレベルはその国の発明の活発さに依拠するものではないかとの守田氏の投げかけに対し、
各パネリストより各国での知財を取り巻く現状が紹介された。タイでは、発明褒賞制度や出願を補助する制度が
導入されているものの、タイ特許出願の国内出願人比率は7%に過ぎず、まだまだ知財の重要性が国民に浸透し
ていないとの分析がなされた。インドネシアにおいても、民間レベルで研究開発に活用できる基金が設立される
等の取り組みが進んでいるものの、国レベルではあまり熱心ではないとのことである。
そんな中話題は、2015年に予定されているASEAN経済統合に及んだ。各国の知財制度があまりに異な
ることから統一制度の策定は難しいものの、特許出願の審査の共通化等を軸に、知財分野の統合も検討が進んで
いることが紹介された。
そして、現状において東南アジア各国の知財制度は発展途上の状態にあり、特許審査を中心とした知財情報が
日本をはじめとする知財先進国より提供されることが望ましいとの結論に至った。
2.特許セッション(出願、小特許、出願戦略等)
第2部は、東南アジア知財委員会特許チーム担当副委員長である大矢広文弁理士により、タイの特許制度を中
心にその特徴や特有の制度が紹介された。まず制度の紹介を通じて、タイでは特許出願の特許性を考えて出願戦
略を練るよりは、日本で権利化されたものを利用しタイで如何に権利化するかを考えるべきとの考えが主張され
た。そのために、日本で出願して早期に特許を取得しパリ条約をはじめとする国際的な知財制度を利用し権利化
を図ることや、日本で権利化を断念したものでもタイ特有の制度である小特許で登録する可能性を検討するとい
った、日本の企業が出願する際に執りうる戦略が紹介された。具体的対応策の紹介は今後東南アジアへの進出を
考える企業の知財戦略に大いに役に立つ内容であった。
3.商標セッション(出願、審査、識別力、周知商標等)
第3部は、東南アジア知財委員会商標チーム担当副委員長である前田大輔弁理士より、タイの商標制度を中心
にその特徴が説明された。まず、タイにおける商標出願の権利化において特に問題となる商標の識別力の審査事
例や周知商標の保護の判例等が紹介され、審査の傾向が検討された。そして、タイにおける商標出願の審査では
論理的な話が通じず、結果、想定外の理由で商標出願が拒絶になることがあるとの感想が述べられ、事前の調査
等をもって戦略的に出願を進める必要性が主張された。事例の紹介もさることながら、現地の特許事務所の協力
もあり制度を利用する際の生の感触までをも知ることができた。
4.権利行使セッション(刑事訴訟・民事訴訟の特徴、訴訟事例等)
最後の第4部は、東南アジア知財委員会訴訟チーム担当副委員長の加藤光宏弁理士・弁護士より、タイの知財
の訴訟制度を中心にその特徴が説明された。通常日本における知財の権利の争いは民事訴訟として行われること
が多いが、タイにおいては実に95%が刑事訴訟として取り扱われている現状が報告された。そのような状況の
中で権利行使の実効性を考えた場合、タイ特有の制度を活用する必要があるとの内容が、事例をもって紹介され
た。普段触れる機会のない現実の東南アジアにおける知財紛争がどのようにして展開しているのかを知る貴重な
講演であった。
知的財産権制度推進委員会 弁理士 水野 祐啓
開催した。本年は「タイの知財丸わかり~タイにおける特許、商標、権利行使、およびインドネシアの知財制度
概要~」をテーマに、タイを中心とした東南アジアの知的財産制度が紹介された。
昨今、タイを中心とした東南アジアは東海地区に関連の深い自動車産業において重要な生産拠点となりつつあ
るだけでなく、日本製品の市場として高い将来性を期待されている。このような状況の下、日本弁理士会東海支
部では平成25年度に東南アジア各国の知財制度について研究する東南アジア知財委員会を立ち上げ、タイを中
心に現地特許事務所の協力を受け、現地視察も行いその知財制度を1年にわたり研究した。今回の知的財産セミ
ナーでは、その研究成果の発表がなされると共に、タイ・インドネシアの弁護士を招いたパネルディスカッショ
ンが行われ、東南アジアの知財を取り巻く現状を実感できるセミナーとなった。
1.タイ、インドネシアの知財動向
第1部は、東南アジア知財委員会委員長である守田賢一弁理士をモデレーターに、タイよりファブリス・マッ
ティ氏及びドゥアンハッタイ・ペントラクーン氏、インドネシアより、キン・ワー・チョウ氏の3名の弁護士を
ゲストパネリストとして招き、タイ・インドネシアの知財の動向が紹介された。
まず、知財システムのレベルはその国の発明の活発さに依拠するものではないかとの守田氏の投げかけに対し、
各パネリストより各国での知財を取り巻く現状が紹介された。タイでは、発明褒賞制度や出願を補助する制度が
導入されているものの、タイ特許出願の国内出願人比率は7%に過ぎず、まだまだ知財の重要性が国民に浸透し
ていないとの分析がなされた。インドネシアにおいても、民間レベルで研究開発に活用できる基金が設立される
等の取り組みが進んでいるものの、国レベルではあまり熱心ではないとのことである。
そんな中話題は、2015年に予定されているASEAN経済統合に及んだ。各国の知財制度があまりに異な
ることから統一制度の策定は難しいものの、特許出願の審査の共通化等を軸に、知財分野の統合も検討が進んで
いることが紹介された。
そして、現状において東南アジア各国の知財制度は発展途上の状態にあり、特許審査を中心とした知財情報が
日本をはじめとする知財先進国より提供されることが望ましいとの結論に至った。
2.特許セッション(出願、小特許、出願戦略等)
第2部は、東南アジア知財委員会特許チーム担当副委員長である大矢広文弁理士により、タイの特許制度を中
心にその特徴や特有の制度が紹介された。まず制度の紹介を通じて、タイでは特許出願の特許性を考えて出願戦
略を練るよりは、日本で権利化されたものを利用しタイで如何に権利化するかを考えるべきとの考えが主張され
た。そのために、日本で出願して早期に特許を取得しパリ条約をはじめとする国際的な知財制度を利用し権利化
を図ることや、日本で権利化を断念したものでもタイ特有の制度である小特許で登録する可能性を検討するとい
った、日本の企業が出願する際に執りうる戦略が紹介された。具体的対応策の紹介は今後東南アジアへの進出を
考える企業の知財戦略に大いに役に立つ内容であった。
3.商標セッション(出願、審査、識別力、周知商標等)
第3部は、東南アジア知財委員会商標チーム担当副委員長である前田大輔弁理士より、タイの商標制度を中心
にその特徴が説明された。まず、タイにおける商標出願の権利化において特に問題となる商標の識別力の審査事
例や周知商標の保護の判例等が紹介され、審査の傾向が検討された。そして、タイにおける商標出願の審査では
論理的な話が通じず、結果、想定外の理由で商標出願が拒絶になることがあるとの感想が述べられ、事前の調査
等をもって戦略的に出願を進める必要性が主張された。事例の紹介もさることながら、現地の特許事務所の協力
もあり制度を利用する際の生の感触までをも知ることができた。
4.権利行使セッション(刑事訴訟・民事訴訟の特徴、訴訟事例等)
最後の第4部は、東南アジア知財委員会訴訟チーム担当副委員長の加藤光宏弁理士・弁護士より、タイの知財
の訴訟制度を中心にその特徴が説明された。通常日本における知財の権利の争いは民事訴訟として行われること
が多いが、タイにおいては実に95%が刑事訴訟として取り扱われている現状が報告された。そのような状況の
中で権利行使の実効性を考えた場合、タイ特有の制度を活用する必要があるとの内容が、事例をもって紹介され
た。普段触れる機会のない現実の東南アジアにおける知財紛争がどのようにして展開しているのかを知る貴重な
講演であった。
知的財産権制度推進委員会 弁理士 水野 祐啓