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新聞掲載記事

更新:2004/12/21

特許制度の中における様々な「期間」

一.始めに
 日本の特許制度を柱となって支えているのは特許法である。ただ、この特許法(以下、法)は200以上の条文からなり、さらにこれらを補足する多くの規則等を備えているため、これを理解することは容易ではない。ここで、特許制度の中には、法上で定められた様々な「期間」が存在し、各「期間」がぞれぞれに重要な意味を持っている。そこで今回は、法上の種々の「期間」を切り口にしながら、特許制度を紹介したい。

二.特許権の存続期間
 法上重要な「期間」と言った場合、先ず挙げられるのが「特許権の存続期間」である。特許権の存続期間は、「特許出願の日から20年をもって終了する(法67条)」と法上定められており、少ない例外を除いて、特許権は最長でも特許出願(申請)を行った日から20年が経過したときに効力が切れる。特許権を付与された者は、存続期間中はその発明を独占的に使用できる一方、存続期間経過後は何人も自由にその発明を使用できる。
 これは、優れた発明を行った者にはある程度の期間、発明の独占を許容すべきである一方、技術は時代の経過とともに徐々に常識化するのが通常であり、特定の者に何時までもその技術を独占させておくことは公衆の利益を害するからである。
 ここで一つ特徴的なのは、特許権の効力が切れる日を「特許出願の日から」20年としている点である。特許権は、特許出願を行った後、その発明が新しさや進歩性などを有しているかといった、特許庁による所定の審査を受け、この審査を通過した場合に付与される。この審査が終わるまでには通常、数年の歳月を要する。そのため、特許出願をした者が、特許権に基づいて発明を独占できる期間は「20年-出願から特許権が付与されるまでに要した期間」ということになる。つまり、特許権を保有できる期間は、出願から特許になるまでの期間が長いほど目減りしてしまうのである。
 ここで、特許権の存続期間を「特許になってから○○年」としなかったのは、発明者の利益と公衆の利益との調和を考慮した結果と考えられる。つまり、特許付与後から一定期間の独占を認めるとすれば、特許になるまでの期間の長さによっては、発明が誕生してからずいぶんと長い間、公衆がその発明を使用できない時期が続いてしまう。そのため、一律、特許権の終期を出願の日から20年としたものと考えられる。このように、特許権の存続期間の成立ちには、発明者と公衆との両者の利益保護という法趣旨が大きく影響している。

三.出願審査請求の期間
 法上定められた他の代表的な期間としては、「出願審査の請求が可能な期間」がある。法は、いわゆる出願審査請求制度を採用している。これは、特許出願した発明について審査することを特許庁に請求する手続(出願審査請求の手続)が「特許出願日から3年以内」にあった場合のみ、特許庁はその出願について審査を行う(法48条の2、48条の3)という制度である。
 この制度下においては、特許出願した発明について権利化するには、必ず出願日から3年以内に出願審査請求が行われる必要がある。言い換えれば、出願人には、その発明について審査を受けるか否かを判断する、最長3年間の猶予期間が与えられる。つまり、特許出願人は「出願審査の請求が可能な期間」を利用して、先行技術から見た権利化可能性や、時代の技術動向や、発明の商品価値、さらには審査過程および権利化後における金銭的負担などの面から、真に特許化を目指すべきか見極めることができる。その結果、審査を受けるに際して申請書類の内容を訂正することも可能であるし、あるいは出願審査請求を行わないという選択も可能になる。
 また、特許庁においては、何パーセントかの出願については出願審査請求がされず審査が不要となるため、全体の審査負担が軽減される。

四.出願公開の期間
 さらに、法はいわゆる出願公開制度を採用しており、この制度によれば、各特許出願は「原則的に、その出願日から1年6月経過後」にその内容が公開される(法64条)。出願公開は、特許出願についての審査の進み具合とは関係なく、上記の期間が経過したときに特許庁によって行われる。これは、日本の特許制度が、新たな発明を世間に開示した代償として一定期間の独占権を与えようとするものだからである。
 このように、各特許出願は、ほぼ一律に出願日から1年6月後という短い期間で迅速に公開されるため、公衆は、他人の新しい技術開発の成果を自由に知ることができ、以後の技術開発における有用なヒントとすることができる。

五.優先権期間
 特許法は、いわゆる優先権制度(法41条、43条など)を採用している。この制度は、既に特許出願(先願)を行っている場合、この先願の日から「1年以内」に、先願を基礎とする特許出願(後願)を優先権の主張を伴って行えば、この後願の先願と共通する部分については、先願と同じときに出願していれば得られた利益を与えるという制度である。その結果、後願については、先願の存在や、先願と後願との間の時期に世の中に開示された技術によって、その特許性が否定されるということが無くなる。
 従って、特許出願人は、1年という優先権期間を利用すれば、先願と同じ内容について外国に出願したり、先願の改良発明や追加発明について国内で改めて出願した場合に、特許取得までの道が有利になる。

六.意見書提出期間など
 上述した各期間の他にも、特許出願人が審査主体である特許庁とのやり取りを行う中で重要となるのが、「手続補正書(特に、特許請求の範囲、明細書、図面といった書類についての補正書)を提出可能な期間」や「意見書を提出可能な期間」などである。これらは、審査の迅速化という観点から、例えば、特許庁から通知が発送されてから60日以内(意見書を提出可能な期間)等とされ、審査のスピードを滞らせない限られた範囲で認められている。
 このように、特許法を構成する種々の制度中には、極めて重要な意味を持つ「期間」が多くあり、これら「期間」の存在や意味を知ることで、より特許制度というものが理解できるのではないだろうか。

 

弁理士 今井 亮平