先日、ハノイで開催されたアジア弁理士協会のミーティングに参加した。ベトナムへの特許出願の依頼を複数受けていたので、この機会に仕事を託している現地代理人に直接会ってみたいと思ったことがきっかけである。日本から外国に特許出願をする場合、通常は、その国の代理人に依頼する。そのため、現地代理人の能力が、その国で手続を進める上での重要な要素となる。ベトナムの場合も例外ではない。今回は、ベトナム出願を依頼した現地代理人の一人であるビン氏と面会することができた。
ビン氏は、言葉や表情は穏やかだがアグレッシブな部分を持ち合わせていた。彼が大切にしていることは、高い品質を維持することと、問い合わせがあれば24時間以内に必ず回答するということだった。後者の理由として、彼は、回答が遅いと貴方を困らせるからだと言った。実際、現地代理人からの返事が遅いことによって一種のいらだちを感じた覚えが過去に何度かある。スピード感のあるレスポンスが信頼を生む一つのファクターであることは、外国とのやりとりの場合だけでなく、日本の中でもよく感じることだ。そのことからみても、ビン氏のアプローチは間違っていない。現地代理人に対する評価は、最終的には仕事の進め方及び結果によって判断することになる。結果が特許権成立時であるとすると、それは、何年も先のこととなる。しかし、今回の個別ミーティングを通して、少なくとも彼の人柄にひとまずほっとし、大丈夫そうだと感じたことは事実である。
ビン氏によれば、ベトナムには約200くらいの法律事務所があり、知的財産に特化した特許事務所は30程度のようだ。日本弁理士会東海支部の管轄内には、ベトナムの全事務所数よりも遙かに多い、250以上の特許事務所がある。特許事務所をうまく活用するためには、このたくさんの事務所から付き合う事務所を選択する必要がある。選択の条件としては、所在地、技術専門性、競合他社との関係などが基本的なものとして上げられる。しかし、最も重要なことは、依頼者と代理人である特許事務所とが良好な関係を長期にわたって維持することができるか否かにある。長期にわたる信頼関係が構築できれば、双方に大きなメリットがある。代理人は、依頼者の事業や製品に精通することにより、1出願案件の範囲に限らず、もう少し広い範囲にわたって依頼者にとって有益な助言ができるようになる。このことは代理人のやりがいを増加させることにもなる。さらに、話が簡単に通じるようになる。無理を言い合えるようにもなる。まさに、真のビジネスパートナーになりうるのである。このような関係は、長期間の信頼関係がなければ得られない。特許の権利期間が出願日から20年であることを考えても、長期の信頼関係構築の重要性は明白である。特許事務所をうまく活用するには、現在付き合っている事務所、あるいは、これから見つける事務所を、依頼者が、長期に付き合うパートナーとして位置づけることがその始まりである。このようなことを、ビン氏とのミーティングで思い直したところである。
弁理士 岩倉 民芳