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新聞掲載記事

更新:2013/07/31

新製品の知的財産権

 最近、中小企業の新製品を紹介する新聞記事を多く見かけるようになった。弁理士という職業柄、「この新製品は画期的だが、きちんと特許出願を行っているだろうか?」、「デザイナーとコラボしたとあるが、デザインの保護は大丈夫だろうか?」、「いいネーミングだが、商標登録はしているだろうか?」等々、新製品に関わる知的財産権は大丈夫だろうかとお節介ながら考えてしまう。
 新製品が技術的に優れた物であれば、特許の対象となる。しかし、それ以外にも、新製品のデザイン性が高ければ、意匠登録の対象にもなり得る。親しみやすいネーミング等を新製品名とした場合は、商標登録を申請することもできる。このように一つの新製品を複数の知的財産権で複合的に守ることが可能である。これが強い権利網の構築に繋がり、自社の事業戦略を持続的なものとするのに大いに役立つのである。
 従来、多くの中小企業では、これら知財による保護が単独でなされることが多かった。しかし、最近では、中小企業であっても複数の知的財産権をベストミックスする考え方が事業戦略上、重要になっている。
 新製品に対して何の知財も取得していないならば、その新製品がいい物であればあるほど模倣被害等に巻き込まれやすくなる。また、他社特許等の検討を事前に十分に実施しなければ、意図せず他社権利に抵触してしまうこともある。つまり、苦労して新製品を開発したとしても、自社の不十分な知財対応が、新たな事業展開の足かせになるのである。
 例えば、自社の新製品Aについて特許権を取得したが、新製品Aのネーミングについては商標権を取得していなかった状況を考える。新製品Aの認知度があがってきたときに、第三者にそのネーミングについて商標権を取られてしまえば、第三者からネーミングの使用をやめるように要求されうる。これは、特許権を持っていてもそのネーミングで新製品Aを販売し続けることができなくなることを意味する。つまり、この問題が解決するまで新規事業が止まってしまうのである。ここで重要なことは、単独の権利だけでは自社の事業を守り続けることができない場合があるということである。他の例も考えてみる。新製品Aの廉価版が現れた。自社の特許権を侵害する物かどうかは直ぐにはわからないが、新製品Aとそっくりのデザインである。このような場合、意匠権を有しておれば、模倣品が特許発明の技術的範囲に入っているかどうかについて難しい技術的な議論をするまでもなく、製品の外観類似による侵害対応を迅速にとることができ、被害を最小限に留めやすくなる。
 知財はあくまでも事業戦略における一部であり、全てではない。しかし、散発的な知財対応では自社の新規事業を十分に保護できないこともある。中小企業の場合、事業、製品開発にたける経営者が知財について理解を深めれば、事業、製品開発、知財の三位一体の経営=知財経営を実践する基礎ができあがる。経営資源に限りある中小企業は、難しく考えることなく、外部リソースである特許事務所等を活用し、自社の知財戦略を少しずつ磨いていくのがよい。
 担当者任せではなく、経営者自身が経営戦略の一環としていつ知財を位置づけるか、これが新製品開発の成功の秘訣の一つである。

弁理士 柴田 浩貴