特許を受けると、自分で考えたアイデア(発明)を他人に使わせないようにすることができることは良く知られています。この特許は年間でどのくらい増えているか、特許庁が2011年に特許にしても良いとした「特許査定」の件数は、約22万件です。ものすごい数の特許が毎年発生しています。
多数の特許が例年発生している中で新事業を立ち上げる場合等においては、特許を受けている発明と同じ技術を利用したい場合があります。この場合、1つの手段として特許を潰すことで、事業を安全に進めることができます。特許を受けている発明と同じ技術が特許出願より前に存在していたことを証明することで特許を潰すことができます。この手続きとして無効審判があり、無効審判を請求することで特許庁や裁判所で特許を潰すかどうかが判断されます。
無効審判が請求されて特許が潰されそうになったとき、特許を受けている人は、訂正制度を使って特許の内容を変更できます。特許として認められていた技術より更に技術を具体化することで、無効審判で提出された証拠とは異なる技術として特許が認められる場合があるのです。
例えば、折り畳み可能な携帯電話として特許を受けていても、その特許出願より前に折り畳み式の携帯電話が雑誌に掲載されていれば、そのままの特許の内容では特許無効となります。しかし、特許出願の段階で、携帯電話の内部構造や、蝶番の支持構造、或いは、アンテナの収納構造など、他の工夫点が出願時の書類に記載されていれば、その工夫点を特許の内容に追加することで特許を維持できる場合があります。工夫点として追加できるのは出願時の書類に記載していた内容に限られますが、この内容訂正は、特許においては無効審判を請求された場合に何度もすることができます。
実用新案についても特許と同様に無効審判と訂正制度があります。実用新案は、無審査で登録される利点がある反面、内容訂正のできる回数が1回に限られていたり、訂正のできる時期も制限されていたりと、特許に比べて権利者にとって不利な制度となっています。昨年度の特許委員会では、実用新案では権利維持が難しい状況が起こり得るのではと考えて訂正制度の利用状況を調査しました。この結果、内容訂正の機会を失って無効とされた事件が少数ながら見つかりました。
実用新案においては権利者に不利な訂正制度となっていますが、他の制度として、基本的に出願から3年が経過するまでは「実用新案登録に基づく特許出願」をすることができます。この制度を活用すれば、無審査で実用新案権を取得し、その後に特許庁での審査を受けて特許権を取得できます。特許権にしておけば無効審判に対して訂正がしやすく、加えて権利期間も長くなるといった利点があります。実用新案権を取得した場合には、出願から3年経過するまでに一度は特許権の取得を検討することをお勧めします。
日本弁理士会東海支部 特許委員会
前委員長 弁理士 中村 敏之