東海会の活動について

新聞掲載記事

更新:2013/04/30

意匠商標委員会の研究成果から

1.研究テーマ

 日本弁理士会東海支部意匠商標委員会は、意匠分野と商標分野に関するそれぞれの研究テーマとして、部分意匠登録事例の検討と、不正使用取消審判の審決取消訴訟の検討を行いました。

2.部分意匠登録事例の検討

 「意匠」とは、物品の形状・色・模様等を工夫して出来た外観のことをいいますが、特に「部分意匠」とは、物品の一部の形状等につき保護を求める制度であり、例えば、マグカップにつき、特徴のある把手の形状だけを登録することができます。部分意匠制度では、全体としては類似していなくても一部を巧みに取り入れた模倣品に対しても有効に権利行使することができるので、マグカップの特徴的な把手だけを真似した模倣品に対しても意匠権の効力が及ぶことになります。
 さて、このマグカップの例において、把手の形状が「特徴的」であるというのは、“おしゃれなデザインが施された形状”として特徴的であるということでしょうか?それとも、“高齢者でも持ちやすいように工夫された形状”として特徴的であるということでしょうか?委員会では、前者のような場合を「『デザイン/装飾』として利用したタイプ」と想定し、後者のような場合を「『機能/構造』として利用したタイプ」と想定しました。他にも、部分意匠の活用態様を数種類のタイプとして想定し、実際の部分意匠登録事例を集めて、各事例がどのタイプに該当しそうかを分析及び検討しました。集めた事例は65件ですが、中にはかなり面白い活用方法をしているものもあり、とても興味深かったです。
 ちなみに、1999年に部分意匠制度が施行されて以来、部分意匠の活用率は増加し続けて、2010年では、日本の全意匠登録出願のうち、部分意匠出願は約30%以上に達しています。部分意匠を活用すれば、例えば、特許ではハードルが高くて権利化できなかった特徴部分を『機能/構造』タイプとして権利化できる等の大きなメリットがあります。実際の活用率の高さが、このようなメリットの大きさを物語っているのではないでしょうか。

3.商標登録の不正使用取消審判の審決取消訴訟の検討

 商標法では、商標権者及び使用権者(ラインセンシー)に、登録した商標を適切に使う義務が課せられており、特に、他人の商品・役務(サービス)と混同するような使い方や品質等の誤認を生じ得る使い方をすると、不正使用として登録が取消されることもあり得ます。
 しかし、実際には、どの範囲を超えると不正使用と判断され、どこまではセーフなのかを見極めるのは、簡単ではありません。そこで、委員会では、ここ10年間で出された不正使用取消審判の審決取消訴訟の判決のうち、特に興味深いと思われる8件を抽出して検討を行いました。例えば、登録した商標は「イブペイン」(指定商品「薬剤」等)だったのに、実際の商品には「EVEPAIN」と使用したため、他社の周知著名な鎮痛・解熱剤「EVE」と混同を生ずるおそれがあるとされ、商標登録が取消された事件(平成18年(行ケ)第10375号)等がありました。8件の判決を概観してみると、全て、他人の商品・役務(サービス)と混同するような使い方かどうかが争われた事件であり、特に、同じ業種の他社商品・役務や、周知著名な商品・役務との混同の有無が争われています。
 登録した商標と異なる態様で使用するとき、他社の商標権侵害とならないよう気を付けることはもちろんですが、他社の商標が登録されていなくても(商標権がなくても)、自社の使用態様によっては不正使用と判断されて商標登録が取り消されることもあり得るので要注意です。

日本弁理士会東海支部 意匠商標委員会
前委員長 弁理士 廣田 美穂