日本弁理士会東海支部は、支部開設日を記念して、平成25年2月8日に、「知的財産セミナー2013」を開催した。「東海地区ものづくり産業の今後の展開と知的財産活動~特に自動車産業および自動車部品産業において~」をテーマに、中部地方にとって中心的とも言える自動車関連産業に的を絞った3つの講演を行った。当日は、約500名近い来場者が、ヒルトン名古屋の会場を埋め尽くした。
どの講演も貴重な話題を提供するものであり、限られた紙面の中では十分に伝えきれるものではないが、内容を簡単に紹介する。
1 基調講演「東海地区におけるものづくり産業、特にイノベーションとして見た自動車産業」
講師:竹野 忠弘氏(名古屋工業大学大学院工学研究科准教授)
自動車産業をイノベーション(革新)という斬新な視点で捉えた講演である。竹野氏は、自動車産業には、ハイブリッドカーやFC(燃料電池)カーのようなハードとしてのイノベーションと、ETCなどに代表されるように自動車を運用する環境としての都市イノベーションという2つの側面があると指摘し、環境対応を考慮したいわゆるエコカーは、単に自動車産業というよりも、エネルギー産業と呼ぶべき側面もあると述べた。さらに、ハイブリッドカーやFCカーなどの新たなコンセプトの自動車が登場することによって、従来の技術分野だけでなく、新たに発展すべき研究分野や製造技術分野などがあり、航空機技術が自動車に転用されている例を挙げた。自動車産業は成熟産業であるとの見方も一部には存在する中、自動車産業の新たな方向性、発展性を感じさせる講演であり、ある意味、勇気づけられる内容であった。
2 特別講演第1部「自動車産業の知的財産活動~知財は情報戦~」
講師:佐々木 剛史氏(トヨタ自動車株式会社 知的財産部 部長)
トヨタ自動車における知的財産活動の考え方が、惜しみなく紹介された。佐々木氏は、(1)新興国での知的財産活動の重要性が増していること、(2)知的財産が多様化し、自動車産業だけでなく、他の産業との関連を考慮する必要が高まっていること、(3)製造に携わっていない第三者からの知財争訟への対応も考慮する必要性が高まっているという知的財産の環境変化を踏まえ、知的財産活動では、どのような情報戦を展開すべきか、という見解を披露した。特に注目すべきは、情報戦とは、非合法的に情報を集めるという意味ではなく、公然と知られている事実から、いかにして法則性を探り出すかという点が重要であるという指摘である。つまり、多くの事実を集約・分析することで、社会動向や技術動向を探り出し、これらを踏まえた出願を行うというように、まるで未来を見てきたかのような「時を操る力」が要求されるとのことである。鋭い指摘に、首肯するばかりの内容であり、来場者にとっても得がたい情報が得られたと思われる。
3 特別講演第2部「自動車部品サプライヤーの知的財産活動」
講師:竹中 弘氏(株式会社ジェイテクト 知的財産部 理事)
株式会社ジェイテクトは、ステアリング、軸受などの自動車部品を製造する会社である。多様な自動車メーカーが取引相手となるため、多様な部品をいかに効率的に供給するか、が事業を営む上での重要な課題とのことである。竹中氏は、こうした事業背景にあって、ジェイテクトでは、「提供する製品と同じ知財品質」をテーマに掲げ知的財産活動を展開しているおり、具体的には、製品の構想、開発、設計、生産の各工程で、知的財産に的を絞って、出願漏れがないか、また他社の特許権を侵害していないか、というチェックを行っていると述べた。侵害については、量産後もチェックをしているとのことであり、知財品質に対する同社の意識の高さを伺わせる内容であった。また、同社は、自社の特許権については、侵害発見および権利活用の促進も図っており、知的財産の資産活用を図ると共に、特許権だけでなく、顧客等が、どういった側面に価値を見いだしているかを踏まえて、自社のブランド戦略も展開している。同社の取り組み、特に、知財品質に対する意識は、自動車の部品産業に携わる方に限らず、非常に参考になったと思われる。
日本弁理士会東海支部 知的財産権制度推進委員会
副委員長 弁理士 加藤 光宏