現在の実用新案出願数は年間約九千件と少ない。平成七年から進歩性などを判断せずに実用新案権(権利期間は出願から一〇年間)を成立させるという無審査制度の導入以来、年々減少し現在に至っています。しかし、特許制度と異なった特有の制度であり、特に中小企業にとって活用できる方法も多くあります。
■特許よりも権利取得までの費用を安くしたいとき
権利取得までの実用新案と特許との費用を比較すると、特許取得に必要な、審査請求費用、拒絶対応を行う事務所費用及び事務所への成功報酬の約四〇~五〇万円程度の分だけ、実用新案の方が安くなります。警告をする場合に必要とされる技術評価の請求費用の約五万円が掛かるとしても、実用新案は大幅に安くなります。
■特許出願しても権利化できそうもないが実用新案権を取得して防衛をしたいとき
特許調査をした所、特許性が低くて特許権取得を断念せざるを得ない場合、実用新案出願をし、実用新案権を取得することができます。
■近々に販売する製品について積極的に且つ安価に早期権利化を図りたいとき
近々に販売するような開発製品について実用新案出願をすると、三月程度で実用新案権を取得できます。直ぐに販売する開発製品の保護につながります。
■基本技術を特許で抑えた場合その周辺を権利化費用が安い実用新案で防衛したいとき
基本技術について特許出願をし、その周辺の製品寿命が短いと思われる改良製品については、安価な実用新案で防衛することができます。
■特許出願をしたが高価な審査請求する前に安価な実用新案出願に変更したいとき
特許出願の審査請求期限は出願から三年であり、それまでに権利化可否を見極めなければなりません。三年後でもまだその見極めがつかない場合、また、特許権を取得しようと思っていたが、その後の費用の負担が大きくなってきた場合、高額な審査請求料金を納める前に実用新案出願に変更することができます。
■意匠出願をするとともにその周辺形態を広く実用新案で防衛したいとき
意匠権の権利範囲は比較的狭い。実用新案により意匠出願形態を含め広く形態を防衛・保護できます。
■安価な日本の実用新案出願を基礎に中国実用新案出願をしたいとき
中国での実用新案権取得を主に考えている場合、安価な日本での実用新案権を取得するとともに、これを基礎に一年以内に中国実用新案出願をすることができます。中国実用新案も無審査制度ですので、早期に中国実用新案権を取得できます。
■実用新案権の行使等をする場合の注意事項
実用新案権の行使などに当たり、以下の点について留意する必要があります。これらの場合は、その判断が複雑ですので弁理士、弁護士に相談するようにして下さい。
◆警告をしたい場合
警告する場合には、特許庁が作成する技術評価書を提示する必要があります。この場合、進歩性などが否定されないという好ましい評価を得た場合に行うことが安全です。
◆実用新案権を行使したい場合
この行使は、前記警告をした後でなければできません。技術評価書の提示やその他相当の注意をしないで警告や権利行使を行った後に、この実用新案登録が無効になった場合には、それにより相手方に与えた損害を賠償する責めを負うことになります。
日本弁理士会東海支部 支部長
弁理士 小島 清路