わが国の特許制度では、発明が特許を受けるためには、特許出願より前にその発明が第三者に知られていないこと(「発明の新規性」といいます。)が要件とされます。このため例えば・・・
「既に販売中の製品に用いられている技術に関する発明について、特許を受けたいと思っているのですが。」
「特許出願する前に論文で発明を発表してしまいました。」
「投資家に発明の内容を説明しました。研究開発資金が調達できたら、その資金を元手にして特許出願する予定です。」
なんて場合には、第三者(製品の購入者、論文の読者、投資家)に発明が知られてしまっているので、原則、発明の新規性は喪失してしまったとみなされます。このため、このままでは特許を受けることができません。
ずいぶんと酷な話ですよね・・・。「学会の論文での発表」や「投資家への説明」等は、決して悪いことでないのに・・・。
実は、これでは産業の発達にも好ましくない、ということで、特許法では、
(1)例えば、実証試験の実施、刊行物への掲載、展示、販売、学会発表、テレビ、ラジオ、インターネットを介しての発表等によって、特許を受ける権利を有する者の行為に起因して発明が公開された場合(公開の態様は問われません。)、(2)例えば、脅迫又はスパイ行為等によって発明が公開された場合
には、所定の手続きを行うことによって、発明の新規性が喪失しないものとして取り扱われるようにできる規定が設けられています。
なお所定の手続きとして、例えば(1)の場合には、発明の公開日から6月以内に特許出願し、同時に、例外規定の適用を受けるための書面を提出する必要があります。さらに、特許出願の日から30日以内に、例外規定の適用の要件を満たすことを証明する書面を提出する必要があります。また(2)の場合には、出願と同時に例外規定の適用を受けるための書面を提出する必要があります。
この規定を、「発明の新規性喪失の例外規定」といいます。
やれやれこれで一安心。公開されてしまった発明もなんとか特許を受けることができそうです・・・。
いやいや、油断は禁物です。新規性喪失の例外規定は、あくまでも、「特許出願より前に第三者に知られてしまった発明は特許を受けることができない」という原則に対する例外規定であることを忘れてはいけません。例えば、新規性喪失の例外規定が適用された場合でも、第三者が同じ発明について先に特許出願してしまった場合や、同じ発明が先に公開された場合には、原則どおり、特許を受けることができません。また、海外への出願を予定している場合には、その国の新規性喪失の例外規定によっては、特許を受けることができなくなる可能性もあります。
要するに基本は、新たな発明はできるだけ早く出願をするということなのです。新規性喪失の例外規定は、「やむをえない場合」に適用するものである、ということをくれぐれもお忘れなく。せっかくの優れた発明でも、特許を受けることができなくなってしまいますよ。
弁理士 稲山 朋宏