「あっ!これ発明かも?!」
みなさんも新製品の開発や従来製品の改良で「あっ!これ発明かも?!」、「大儲けできるかも!」と思われたことがあるかもしれません。そして、なじみの特許事務所に出かけ、弁理士に相談を持ちかけたところ、バッサリと「進歩性がないかもね。」と返されたご経験をお持ちでは?
特許の世界ではよく目にする「進歩性」という言葉、何なのでしょうか?
手元の湯呑みを眺めてください。白磁の有田焼や豪華な九谷焼のデザインを見るだけでお茶がおいしくなりそうな気がします。でも、奥さんとのケンカでこの湯呑みがとんでくると、ケガをするかもしれません。そこで、あなたは思いつきました、「湯呑みを衝撃吸収素材でコーティングしよう!」。これで湯呑みがとんできても、ケガの心配がなくなり、奥さんと安心してケンカできます。
そして、これは「大発明だ!」、「特許にしよう!」と満面の笑顔で特許事務所へ行くと、弁理士から「うーん。進歩性がないかもね。」と返されます。やっぱり出てきました「進歩性」。なぜ「進歩性がない」と返されるのでしょうか・・・。
発明が特許になると、この特許と同じ発明を他人が使うことはできません。そう、特許には、独り占め(独占)できる力があります。ですから、なんでもかんでも特許にすると、独占された発明ばかりが溢れ、誰も何もできなくなってしまいます。こうなると、自由な活動が制限され、経済は停滞してしまいます。
そこで、なんでもかんでも特許するわけではない、というルールを考えます。まず、世の中で既に知られていたり、使われているものは、特許にしません、というルールにします。上の例で行くと「湯呑み」は世の中で既に知られているので、新しくない、つまり「新規性」がないとして、「湯呑み」そのものは特許にしません。これで、既に知られたものであれば自由に使えるので安心?そうは行きません。
「湯呑み」に「衝撃吸収素材でコーティング」したものは新しいのですが、安全のために「軟らかい素材でコーティング」することは技術的に当然では?そうなんです。「進歩性」というのは、新しいものであっても、誰でも思いつくような簡単なものですか、という考え方なのです。誰でも思いつくものですと「進歩性がない。」、誰でも思いつかないものですと「進歩性ある。」となるわけです。
前振りが大変長くなりました。本題はここからです。この「進歩性」の判断は、特許庁で特許出願を審査する際に問題になります。これまで、特許庁の審査では、この「進歩性」の判断が非常に厳しく、なかなか特許にしてくれませんでした。でも、最近の傾向を見ていると、この「進歩性」の判断がずいぶん甘くなってきたように思えます。
この「進歩性」の判断が甘くなった、というのは特許を出願する側には歓迎なのですが、前述のようになんでもかんでも特許になると、自社の新製品を販売しようとしたとき邪魔する特許権もたくさん存在することを意味します。「進歩性」の基準一つで世の中の活動が良くも悪くもなる、という意味では「進歩性」はとても大事な言葉なのです。
日本弁理士会東海支部 特許委員会 委員
弁理士 南島 昇