スマートフォンにおけるアップルとサムソン電子の対決、Googleによる大量の特許買収、中国高速鉄道をめぐる技術模倣問題、日本企業の技術データの他国への流出問題、国際的M&Aなど、ここ最近、さまざまな産業分野で海外での知的財産に関する話題が報道されています。
最近では、知的財産で市場を独占するのではなく、多くの人々に使ってもらうことで社会に広めるように発想が変化してきています。日本の携帯電話がその例で、スマートフォンで米国と韓国にたちまち抜き去られました。知的財産を取得したら、世界の多くの人に使ってもらい、世界標準を目指す方向にあります。
最近の国際的な特許出願の傾向を見ると、中国における出願件数の増加が著しく、国策として企業の知財力の向上を図っている上、進出を狙う海外企業も増加しています。米国では、2010年は特許出願が約50万件に増加しています。米国特許法改正によって海外企業の出願比率が今後さらに増加することが予想されます。
日本企業の多くは、中国、米国をはじめとする新興国での特許取得に力を入れる方向にシフトし、知的財産活用の重要性が高まっています。中国と米国の次に、欧州、インド、タイ、インドネシアなども注目されます。日本企業にとり、知的財産を海外で取得・維持し活用することは、海外での生産販売活動の円滑化、海外での自社製品の模倣防止、ライセンスの必要性、他社の権利化阻止等にとり、不可欠です。
日本企業は中国や東南アジアでの模倣に苦労しています。外資系企業が現地企業を模倣で訴えるケースが多かったが、逆に現地企業が訴訟を起こすケースも増加しています。訴訟制度は行政と司法の2つのアプローチがあり、仮に訴えられたら、かなりの速さで審理が進むため準備が大変となります。普段から中国の知的財産について調査して戦える知的財産を保有することが必要です。
中国政府は特許、意匠、実用新案合計で200万件の取得を目標とし、中国での知的財産をめぐる競争が激化し、将来的に訴訟大国になる可能性があります。今後、中国企業の技術レベルが拡大すると訴訟がさらに増えることも予測されます。
中国の意匠、実用新案は、原則、無審査登録制度で、形式的な出願の要件を満たせば登録がなされます。登録件数が増加しており、利用する日本企業が増加しています。新規性を有しない場合には、登録後に無効とされる場合があります。
中国の知財の量的優位性が質的優位性に変わってくることが予想されます。市場の大きな中国が国内標準を確立して他国を従わせれば世界標準になることも可能です。
中国でiPad商標権問題が話題となっており、商標権侵害なども深刻になっています。冒認商標の取消までの期間とコスト負担を考えると、トラブルの起こる前に商標登録し防衛する必要があります。
米国において改正特許法が昨年9月に成立し、先発明主義から先願主義へ移行しました。世界に大きなインパクトを与える出来事です。サブマリン特許問題やパテント・トロール問題なども大幅に改善されることが期待されます。
米国の意匠は特許法に規定され、部分意匠、多意匠一出願などを特徴とし、米国商標法は先使用主義を採用し、商標登録するには基本的に使用証明が要求されます。
知的財産については各国で制度が相違しています。例えば、ソフトウエア特許、医薬品特許の保護範囲、進歩性等に関しては、各国で相違しますので、出願には工夫が必要です。知的財産の対象や登録要件が物から使用方法まで様々に拡大していますので、どの範囲まで保護されるのか留意が必要です。
最近では知財の制度が調和されてきています。知的財産の究極の理想は主要国が出願から審査・登録までのプロセスを共通化した世界システムを構築することです。現在、PCT国際出願制度、マドリッドプロトコル、欧州共同体商標(CTM)等が既に導入されている他、各国同士で先行調査や審査結果をお互いに利用できる審査ハイウェイも運用が拡大しています。意匠の国際登録に関するヘーグ協定も着実に進化しています。今後、海外の知財制度が今まで以上に変化することも予想されますので、情報管理体制を整えることが大切です。
日本弁理士会 国際活動センター 副センター長
弁理士 尾崎 隆弘