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新聞掲載記事

更新:2012/09/28

特許のフシギ解明(下)~切り餅特許事件を題材に~

 妻の美咲から「サトウは自分の特許の餅を売っただけなのに、なぜ特許侵害になるの」と問い詰められた草太君、前回、とりあえず説明しました。でも、美咲はまだ納得できていないようです。

「でも、他人の特許を侵害することになる発明なら、特許にしないでほしいわ。同じ発明にいくつも特許するのはおかしいでしょ。」

「同じ発明に2つ以上の特許は成立しないことになっているよ。今回の場合は、同じ発明にはならないんだ。特許された越後の発明は、側面に切れ込みを入れた切り餅。サトウのは、側面に横の切れ込みを入れた上に、上面と下面に十字形のある深さの切れ込みを入れた発明だ。サトウの発明は、越後の構造を含んでいるけど、さらにある深さで十字形の切れ込みを入れるという構造がプラスされている。プラス部分があるから、別の発明だし、そのプラス部分の相違が認められて特許になったと思うよ。」

「特許にはなったけど、サトウの切り餅は、横に切り込みを入れるという越後の特許の構造を含んでいるから、特許侵害になるという訳ね。」

「その通り! 特許になることと、侵害になることとは別問題だということは判ったみたいだね。
例えば、美咲が以前発明した!って言ってた新しいボールペンの構造だけど、美咲がその特許を取ったとしようか。でも、その構造をそのまま利用して、誰かが更にスマホ操作用のタッチペンをプラスしたボールペンを考えて特許になり、その改良ボールペンが発売されたら。美咲は、きっと特許侵害だと文句を言いたくなるだろ。」

「当然だわ。私の発明が使われているなら。」

「その一方で、美咲のボールペンを改良することで、スマホ用のタッチペンにもなるペンを考えた人にとってみると、美咲のボールペンの構造が含まれているからといって、特許を受けられないのは、文句言いたくなるよね。タッチペン部分に工夫があるんだから。」

「そうかもね。私に特許料を払えば、特許にしてあげてもいいわ。ホッホッホ。
 ところで、サトウさんみたいにならないようにするには、どうすればよかったの?」

侵害回避の準備

「ライバル関係にある会社に特許で後れを取ると今回のように大変なことになる。ライバル企業の特許出願状況は常に監視しておくことが必要だね。自社製品に影響が及びそうな特許がライバルから出願されていたら、それが特許になったらどうするかを検討しておく必要がある。
 インターネットにある特許庁の『電子図書館』のサイトで、どの会社の出願でも検索できるよ。危ない出願を見つけたら、その特許が成立しないように手を尽くしたり、設計変更したりできるはずだから、専門家の弁理士に相談すべきだろうね。」

海外での特許取得

「餅なら、中国で売れそうじゃない!サトウは日本で越後の特許に勝てないなら、中国の特許を取ったら?」

「いいね!特許は国ごとに成立するからね。」

「中国で特許を取るには、日本に出願していても、また中国に出願しなくてはならないの?」

「そう。日本の特許は日本国内だけで有効だ。だから、外国で特許が欲しければ、それぞれの国で出願しなくてはならない。」

「それじゃ、サトウは大急ぎでこの発明を中国に出願して越後の鼻をあかすべきだわ。」

「どの国でも、特許を取得するには新規性、進歩性が要求されるから、もう特許公報が発行されたサトウの発明は特許されないよ。」

「特許公報に書かれているのはサトウの発明よ。自分の発明でも、だめなの?」

「それは、日本も外国も同じで、特許公報が発行された発明は、後からどの国でも特許を受けることができないよ。外国で特許が欲しければ、日本の出願から、1年以内にその国で特許出願しなくてはならないんだ。」

「1年か。短いね。1年じゃ、どの国で特許が必要か、判断付かないこともありそうよ。」

「PCT出願(国際特許出願)という特別なやり方もある。それだと、いったん国際特許の出願をしておけば、どの国で特許を取るかという決定を最初の出願から2年半の間にすればよいというメリットもある。でも、すごく複雑なので、専門家である弁理士に任せた方がいいだろうね。」

「餅は、餅屋にという訳ね。」

「そう!」

(おわり)

弁理士 後呂 和男