一 研究テーマ
日本弁理士会東海支部意匠商標委員会は、昨年度の研究テーマの一つとして、特許の出願と併せて意匠の出願をすることの意義はどういう点にあるのかということを選択しました。発明を製品として具体化する場合にはその機能が物品の形状に反映することがあります。意匠の保護対象は物品の形状等ですので、そのような製品については、特許権とともに意匠権も取得できる可能性があります。また、特許権と意匠権の両方を取得しておけば、それぞれの権利の弱点を補い合うことができると考えられます。これを実際の例で検証するため、本委員会では、同一又はシリーズものの被告製品に対して、特許権侵害と意匠権侵害の双方が主張された裁判例を研究しました。
二 特許権侵害と意匠権侵害の双方が主張された裁判例
(1)レンズ事件(平成20年(ネ)第10088号・平成21年(ネ)第10013号)
被告の販売する3種類のカード式ルーペ(簡易顕微鏡)が、原告の特許権(1件)と意匠権(2件)を侵害するとして、原告が訴訟を提起したところ、被告製品A~C全てにつき特許権侵害が認められ、被告製品A,Bにつきカード意匠の意匠権侵害が認められました。この事案では、アイデアを具体化していく初期段階では発明として特許の保護を求めることができる一方、アイデアがより具体化するにつれて意匠の保護を求めることができること等が確認されました。
(2)取鍋事件(平成19年(ネ)第10032号)
被告の使用する取鍋が、原告の特許権(7件)と意匠権(1件)を侵害するとして、原告が訴訟を提起しました。特許については、被告から進歩性なしとして無効審判請求が行われたため、原告は無効とされることを回避するために訂正を行い、訂正後の特許権4件につき侵害が認められました。また、意匠権についても侵害が認められました。これに対し、被告は、訂正後の特許権を回避するため被告製品の設計変更を行い、設計変更後は特許権1件につき侵害が認められ、意匠権については設計変更が影響することなく侵害が認められました。この事案では、7件の特許権のうち2件の進歩性が否定された一方、意匠は創作非容易性が肯定され、意匠は特許に比して無効になりにくいことが確認されました。また、特許権と意匠権の損害賠償額の比が最終的に5:1となり、権利化費用を考慮した場合の意匠権のコストパフォーマンスの高さが確認されました。
(3)インサート器具事件(平成13年(ワ)第27381号)
被告の2種類のインサート器具のうち被告製品1が原告の特許権(1件)を侵害し、被告製品2が意匠権(1件)を侵害するとして、原告が訴訟を提起したところ、特許権侵害は認められませんでしたが、意匠権侵害が認められました。この事案では、端的に、意匠権取得の有効性が確認されました。また、出願から特許権取得までの期間が約6年半だったのに対し、出願から意匠権取得までの期間が約1年4カ月であり、意匠権による早期保護の可能性も確認されました。
(4)
上記3件の裁判例から、技術的特徴が外観として現れる場合は、特許権だけでなく意匠権も取得しておくことでそれぞれの権利の弱点を補い合うことができ、また、損害賠償額の高額化も期待できる等の利点が確認され、双方の権利取得の有効性を改めて認識させられました。
日本弁理士会東海支部 意匠商標委員会
前副委員長 弁理士 廣田 美穂