東海会の活動について

新聞掲載記事

更新:2012/05/30

意匠商標委員会活動報告~不使用取消審判(2)~

 日本弁理士会東海支部意匠商標委員会は、不使用取消審判(50条)において登録商標を使用しているか否かが争われた裁判例等を研究しました。不使用取消審判制度は、商標権者が使用していない登録商標にかかる商標登録を取り消し、第三者に登録商標の使用機会を与えようとする制度です。原則的に『商標権者が登録商標を指定商品/指定役務について使用していること』を立証しない限り、商標登録は取り消されます。不使用取消審判の多くが、『商標権者が使用している商標と登録商標とが社会通念上同一であるか否か』という点と『登録商標を指定商品/指定役務について使用しているか否か』という点を争点としています。4月の記事では前者の争点を説明しましたが、今回は後者を争点とする近時の裁判例等を紹介します。なお、商標権者等の行為が指定商品/指定役務との具体的関係において法上の使用行為(2条3項各号)に該当する場合に、『登録商標を指定商品/指定役務について使用している』と認められます(最高裁S42(行ツ)32号)。
 イネス事件(H11(行ケ)100号)とエスパ事件(取消2007-300040号)とelle et elles事件(H21(行ケ)10203号)では、指定商品が掲載された広告に登録商標を付す行為が法上の使用行為(2条3項8号)に該当するとされました。これらの事件では、登録商標が広告において単に小売店舗(売場)名等を表示するに過ぎず、指定商品についての商標の使用にあたらないと審判請求人が主張していました。
 がんばれ日本事件(H16(行ケ)337号)と東京メトロ事件(H19(行ケ)10008号)では、商標権者が登録商標を付した商品がそもそも法上の商品でないと審判請求人が主張しました。従来、有償性と流通性とが法上の商品であるための要件とされてきましたが、これらの事件では画一的な判断を避け、商品の具体的な収益形態や流通形態まで踏み込んで結論が出されました。
 なにわ焼事件(取消2008-300002号)とクラブハウス事件(H21(行ケ)10354号)では、登録商標の表示した広告をインターネットによって提供する行為を法上の使用行為として認めました。電磁的方法の一つであるインターネットによる広告も法上の使用行為に該当します(2条3項8号)。インターネットによる広告も登録商標の使用事実を形成する手段となり得ます。
 ザックス事件(H16(行ケ)404号)では、登録商標が付された素材で製造された指定商品(完成品)にも登録商標が付されていましたが、素材についての使用行為のみに該当し、完成品についての使用とは認められませんでした。完成品の品質保証責任を素材メーカの商標権者が負わないとする契約が、完成品である指定商品についての使用行為を否定する方向に作用したという奥の深い判決です。
 AtoZ事件(H8(行ケ)68号)とインディアン図形事件(H14(行ケ)500号)では、商品に付された登録商標がそれぞれ著作権者表示と意匠的模様を構成しているため、商標の使用行為に該当しないと審判請求人が主張しましたが、商標の機能が完全には損なわれておらず使用行為に該当するとされました。
 ポーラ事件(H2(行ケ)48号)とGENESIS事件(H23(行ケ)10096号)とDEEPSEA事件(H21(行ケ)10141号)では、指定商品(包装)に付された登録商標が出所表示機能を発揮していないため商標の使用行為に該当しないと審判請求人が主張しました。GENESIS事件とDEEPSEA事件では出所表示機能が発揮されていると認定し、ポーラ事件ではそもそも使用行為の成立に出所表示機能の発揮は必要ないと判示しています。出所表示機能の発揮が使用を認定するための要件となるか否かは、判例間で結論が割れており、統一的な見解が待たれるところです。
 不使用取消を回避するためには、2条3項各号に挙げられた使用行為を理解することがきわめて重要です。また、出所表示機能等の商標の機能を果たす態様で登録商標を商品等に付すことが安全策であると言えそうです。

日本弁理士会東海支部 意匠商標委員会
前委員 弁理士 後藤 貴亨