東海会の活動について

新聞掲載記事

更新:2012/04/27

意匠商標委員会活動報告~不使用取消審判(1)~

一 意匠商標委員会の昨年度のテーマ

 東海支部意匠商標委員会(以下、「本委員会」)は、昨年度の研究テーマとして、商標権者が登録商標を使用しているとはどういうことか、及び、特許の出願に併せて意匠の出願をすることの意義はどういう点にあるか、ということを選択しました。そこで、昨年度選択した上記テーマについて、昨年度の委員が交代で、商標については4月(今回)と5月の2回に分けて説明し、意匠については6月の欄において説明いたします。

二 不使用取消審判の存在

 商標出願をした商標が登録されると、その登録商標について商標権を有することになります。出願人は商標権者となって安心ということになりますが、いわゆる不使用取消審判(商標法50条等)の存在に注意する必要があります。この審判は、簡単に言えば、商標権者等が3年以上継続して指定商品等について登録商標を使用していない等の所定の要件を満たす場合には、請求によってその指定商品等に係る商標登録を取り消すという審判です。この審判において商標法に規定された所定の要件を満たしていると認められると、せっかく商標登録を得ていても、商標登録が取り消されてしまう虞があります。そこで、商標権者がこの取消を免れようとするならば、登録商標を適切に使用している必要があります。

三 社会通念上同一

 不使用取消審判やその取消訴訟(以下、「取消訴訟等」という)で争われた事件には、使用しているのが「登録商標」と言えるのか、「指定商品等」についての使用と言えるのか、そもそも商標としての使用と言えるのかということが争われた事例があります。そこで、今回は使用されたのが「登録商標」と言えるか否かという争いについて簡単に説明します。
 「登録商標」かどうかが争われるのは、登録商標をそのままの形で使用せずに変形して使用することがあるからです。例えば、平仮名の登録商標を片仮名に変更して使用したり、登録商標の一部を省略して使用したり、逆に登録商標と他の文字や模様等とを組み合わせて使用するなど、登録商標を変形して使用するということです。この点につき、商標法は、「書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標」(50条括弧書き)の使用は登録商標の使用に含まれると規定しております。従って、取消訴訟等では実際に使用している商標が登録商標と「社会通念上同一」と言えるかどうかが争われることになります。
 例えば、文字を変更した事例として、登録商標「めでたや」(指定役務:飲食物の提供)を「めでた屋」、「MEDETAYA」と変形して使用した事件(東京高裁:事件番号H15(行ケ)99))があります。審決ではいずれも「社会通念上同一」が否定されたのですが、取消訴訟では登録商標「めでたや」と使用商標「MEDETAYA」との「社会通念上同一」が肯定されました。単に称呼(読み)の同一だけではなく、観念(意味)の同一も考慮されております。尤も登録商標「めでたや」も同時に使用していれば始めから問題にならなかったと言えます。
 登録商標に他の要素を付加して使用した場合については、例えば、登録商標「スキャンメール」に対して使用形態が「スキャンメール10K」という事件(知財高裁:事件番号(H21(行ケ)10118))があります。この事件では、「「10K」の部分は,商品に付された型番ないし商品番号として取引者・需要者に認識されることが多いということができる」(知財高裁判決)ので識別力が無く、識別力があるのは「スキャンメール」の部分であるとして、「スキャンメール10K」と「スキャンメール」との社会通念上の同一が肯定されました。
 このように、登録商標そのままの使用が無く、登録商標を変形した使用しかない場合は、不使用取消審判を提起される危険があるので、注意する必要があります。

日本弁理士会東海支部 意匠商標委員会
前委員長 弁理士 鵜飼 英行