一 はじめに
製品流通の国際化・製造拠点の国際化がもはや当たり前となっている今日において、我が国での特許戦略のみならず、外国における特許戦略も重要になっている。
「国際出願」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。国際出願とは、国際出願を一箇所にすることにより126カ国(2005年2月8日時点(予定国含む))のPCT(Patent Cooperation Treaty)締約国全てに出願したのと同様の効果を得ることができる出願のことである。
もっとも、国際出願はあくまで「一度に全PCT締約国126カ国に出願できる」ということであり、これだけで、全PCT締約国126カ国で特許権が得られるわけではない。従って、国際出願制度を利用して各国で現実に特許権を取得するためには、(1)国際出願という手続のほかに、(2)国内移行手続という手続をしなければならない。従って、126カ国で権利を取得するためには、126種類の国内以降手続が必要となる。
すると、「国際出願でも結局各国毎に国内移行手続をしないといけないのなら、直接、外国出願しておけばよいのではないか。」ということもできる。
二 直接、外国出願することの欠点
しかし、直接、外国出願を行うと、手続面で無理無駄がある。例えば、直接、外国出願を行う場合には、各国別に願書・その国の言葉に翻訳した明細書・図面等を準備し、各国の代理人を経由して各国特許庁へ出願しなければならない。従って、殆どタイムラグのない状態で各国の翻訳文を準備して各国に出願しなければならず、これは一度に極度の集中力を要し、莫大な金銭や作業が必要になるのである。また、優先権主張(外国における特許取得のために各国が合意している最も基本的な取り決めである(パリ条約第四条)。
優先権制度とは、第一国出願に基づく優先権を主張して第二国出願を行った場合には、第二国出願の特許性の判断の基準の日又は時を、第一国出願の日又は時とするという第二国出願の優先的な取り扱いを定めたものである。第一国出願の日を「優先日」というが、優先権主張を伴わない場合には現実の出願日を「優先日」という。)を伴なったとしても、優先期間内(優先日から十二ヶ月)に同じことをしなければならない。出願人には専門的な調査能力がないため、十二ヶ月という短い期間で権利化の可能性を各国毎に判断することは難しい。
結局、直接、外国出願という戦略を採用すると、十二ヶ月という優先期間が仮にあったとしても、その外国で権利取得ができるのか、また、市場性があるのか否かといったことを十分に調査できないまま、翻訳費用、代理人費用、出願国への特許庁費用全てを最長でも十二ヶ月以内に一度に負担しなければならなくなる。
三 国際出願の利点①-出願時の労力軽減と、翻訳文提出期間の確保
これに対して、国際出願は一度に一つの受理官庁(我が国では日本国特許庁)にすればよい(優先権主張を伴う場合には優先日から十二ヶ月以内に)。これによって、全PCT締約国における出願日を確保しうる。
しかも、原則として「優先日から三十ヶ月の国内移行手続のための期間を確保」できる。直接、外国出願をするときのように、一度に翻訳費用、代理人費用、出願国への特許庁費用を負担する必要もなくなる。
四 国際出願の利点(2)-先行技術に基づく各国特許取得の可能性の検討
全ての国際出願は、国際調査機関による国際調査に付され、「優先日から九ヶ月又は国際調査機関による調査用写しの受理の日から三ヶ月のいずれか遅く満了するときまで」に、(1)国際調査報告及び、(2)国際調査見解書が作成される。出願人は、国際調査報告により、関連がある先行技術を知ることができるとともに、国際調査見解書により請求の範囲(権利取得を求める部分)に記載された発明が新規性、進歩性及び産業上の利用可能性を備えているかについての予備的かつ拘束力のない見解を得られる。
また、出願人は、国際調査報告及び国際調査見解書の受領後、請求の範囲について一回だけ補正することができる。従って、国際調査報告及び国際調査見解書の内容を判断して、請求の範囲の内容を特許取得の可能性の高い発明内容に限縮できる。
すなわち、出願人は、国内移行手続の期限が優先日から三十ヶ月であるため、その間に国際調査報告及び国際調査見解書を自動的に入手でき、事前に特許取得の可能性を高い確率で判断できる。また、並行して各国における市場調査を入念に行いうる。これらを通じて、各国への国内移行段階へ進むか否かの戦略的な判断を、各国原語の翻訳文を作成する以前の段階で的確に行いうる。とりあえず翻訳して、現地代理人に依頼するというような無駄な作業と費用を回避しうる。
五 国際出願の利点(3)-防衛目的の達成
国際出願を行うと、原則として優先日から十八ヶ月経過後(優先権主張を伴わない場合には、国際出願日から十八ヶ月経過後)に国際公開がされる。
従って、国際公開後の世界中の他人の後発出願やその権利化を阻止することが可能となる。特に、国際公開の場合には、フロントページに発明の名称、要約及び国際調査報告の英語への翻訳文が必ず含まれるので、外国人も技術文献としての調査をしやすい。
また、当然ではあるが、出願人が国際調査報告や国際調査見解書を検討して、国際出願の内容を公表すべきではないと判断した場合には、国際出願を取り下げることによって国際公開を回避することも可能である。
六 国際出願の利点(4)-国際予備審査の活用による有利な判断の確保
国際調査見解書において、有利な結果を得ることができなかったときには、国際予備審査請求を行って、有利な「特許性に関する国際予備報告」を得る途もある。国際予備審査の手続においては、請求の範囲をより限縮した補正書や、審査官に反論するための抗弁を提出することができるので、特許性に関する有利な結果を取得することが可能となる。
「特許性に関する国際予備報告」は、原則として優先日から二十八ヶ月以内に作成されるので、各国への国内移行手続にも間に合う。
七 結び
以上のように、国際出願は、直接、外国出願するのに比べ様々な利点がある。そのため、外国出願の必要が生じた場合は、国際出願という選択をしてはどうだろうか。
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更新:2004/10/21
国際出願
弁理士 小林かおる