日本経済を活性化させるには知財力しかないとの認識は、日本弁理士会、知財関係官庁は言うに及ばず、各自治体の共通認識になっています。
一方、出願件数は、東京、大阪、東海に偏在しており、地方の道県からの出願件数と大きく隔たっています。
この出願件数の偏在が、潜在的・顕在的知財ニーズに比例するものであれば問題なしとしても、知財制度への理解や認識が不十分であったり、知財サービスが充分に享受できないことが背景にあるとすれば、知財専門化集団である日本弁理士会としても応分の責任を果たさなければならないと考えています。このような観点から、日本弁理士会は、様々な組織を設置して、地域における知財支援活動を展開しています。
その一端をここで、ご紹介します。
イ)支部の地域支援
日本弁理士会は、全国支部化のもとに九つの支部を擁しています。地域知財支援の実践的中心は、各支部に委ねられ、各支部の管轄地域で、特許相談、セミナーなどを活発に開催しています。東海支部の知財支援活動は、他地域でも知られており、各支部の模範となっています。
ロ)知的財産支援センター
支援センターは、日本弁理士会の附属機関として設置されて、本年度で14年目を迎えます。毎年、数10回の知財フォーラム、セミナー、相談会等を支部と共に開催しており、遠隔地の支部を中心に、講師を派遣しています。講師の水準を担保するために、各地で支援員研修を行い、質の高い支援活動を目指しています。また、将来を見据えた知財の活性化を念頭において、教育関係への知財授業に力を注いでおり、学校支援教材や小中学校教育モデルを作成し、各支部に供与しています。教育機関に向けてのセミナーも、秋田大学、鳥取大学など多くの大学で実施しています。東海支部でも、これに呼応して、教育機関支援機構を設置し、教育機関への支援及び児童、学生への派遣授業を精力的に行っています。
ハ)地方自治体への支援
日本弁理士会は、20の地方自治体と知財支援協定を結び、各地方自治体の知財活性化事業に協力し、県などと共催して知的財産セミナーを開催しています。
昨年度は、支援協定締結10周年(最初の締結は島根県)の記念行事として、協定自治体だけでなく東京都など関係自治体と、支援の成果と今後の展望につき、積極的な議論を交わし、その意義を共有したところです。東海では、長野県、富士宮市と知財支援協定を結んでいます
支援協定という形態とは別に、各支部は東京都、大阪府、愛知県などと緊密に連携し、積極的に支援を行なっています。東海支部では、平成15年以降、愛知県のあいち知的財産創造プラン(現在の新あいち知的財産プラン)の策定に積極的に関与しています。
ニ)会設事務所
日本弁理士会は、一昨年から、弁理士の少ない地域に、当会の費用で特許事務所(会設事務所という)を設置するという新たな地域支援スキムを創出しました。
最初は青森市に、昨年は大分市に設置しました。会設事務所所属弁理士は、当該地域での講演活動などを積極的に行い、知財マインドの掘り起こしに取り組んでいます。
国の「知的財産推進計画」では、知的財産を活用して地域を振興するとし、種々の具体的提言を掲げています。とりわけ、地域に根ざした中小・ベンチャー企業の支援が重要となります。中小企業数は約450万社で、全企業数の99%以上を占め、一方では、特許出願比率は約12%と低迷した状態であることからも、その活性化が求められます。経済不況下、知財による日本再建が謳われながらも、実際には出願件数の低下が止まらない現状に鑑みると、中小・ベンチャー企業の支援は喫緊の課題です。
日本弁理士会は、上述したように支援センター、各支部を中核として、「知的財産推進計画」策定前から、中小企業を軸とする地域知財支援を精力的に行なってきました。国に先駆けて、中小企業支援を行ってきたと言っても過言ではありません。今後とも、国の施策に合致する、この支援活動を日本弁理士会の基本活動として、大切に育てていきたいと思っています。
日本弁理士会 前副会長 松浦 喜多男