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新聞掲載記事

更新:2012/03/21

新規性喪失の例外規定」(特30条)についての改正事項

1.はじめに

 去る平成23年6月8日に、特許法等の一部を改正する法律案が公布され、平成24年4月1日が施行日として予定されています。当該改正法についての解説は、昨年の9月、本年の1月、2月とそれぞれ行ってきましたが、今回が最後となります。最後のテーマは、「新規性喪失の例外規定」(特30条)についての改正事項です。

2.「新規性喪失の例外規定」の改正について

 公開された発明は、既に新規性を喪失している発明となり、原則として、その公開後に特許出願を行ったとしても特許権は付与されません。但し、この規定を厳格に適用してしまうと、産業の発達に寄与するという特許法の趣旨に反する場合もあります。そこで、特許法においては、従来から「新規性喪失の例外規定」が存在しています。
 この例外規定の適用を受けるためには、新規性を喪失した日から6月以内に特許出願を行うことという時期的要件、及び各種手続的要件を満たすだけでは足りず、その発明の公開態様が、試験の実施、刊行物への発表、インターネットを通じた発表、特定の研究集会における文書による発表、特定の博覧会への出品、及び特許を受ける権利を有する者の意に反して公開された場合のいずれかに該当している必要がありました。
 しかしながら、上記のように例外規定の適用対象が限定されている現行法では、研究開発成果の公開態様の多様化に十分に対応できなくなっています。例えば、研究開発資金調達のための投資家への説明や、研究開発コンソーシアムにおける勉強会での口頭発表のように、産業の発展に寄与するという法の趣旨に照らせば適用対象とされるべきと考えられる公開態様によって新規性を喪失した発明が、適用対象とされていないという問題が生じています。さらには、インターネットで動画配信された発明は適用対象となる一方で、テレビ放送で発表した発明は適用対象とならないなど、ほぼ同様の態様で、ほぼ同様の効果を伴う類似の発明公表行為であっても、発明の公表の仕方・メディアの違いによって、本規定の適用対象になる場合とならない場合とがあり、適用対象を限定列挙していることに起因する不均衡が顕在化してきています。
 そこで、新規性喪失の例外規定の適用対象とされるべきと考えられる公開態様によって新規性を喪失した発明を、網羅的に適用対象とすることができるように、本改正により、当該規定の適用対象が、特許を受ける権利を有する者の行為に起因して新規性を喪失した発明にまで拡大されることになりました。
 これにより、現行制度では本規定の適用対象となっていなかった以下の事例も適用対象となります。

・学会発表(特許庁長官の指定不要)
・製品等の販売・配布
・テレビやラジオでの発明の公表
・非公開で説明等した内容が他の媒体を通じて公開された場合

 但し、特許を受ける権利を有する者による出願行為に起因して特許公報や特許公開公報に掲載されて新規性を喪失した発明は、改正後であっても、本規定の適用対象となりません※1。

3.最後に

 以上のとおり、本改正により新規性喪失の例外規定の適用対象が拡大されました。しかしながら、この規定はあくまでも特許出願より前に公開された発明は特許を受けることができないという原則に対する例外規定であることに留意する必要があります。仮に出願前に公開した発明についてこの規定の適用を受けたとしても、例えば、第三者が同じ発明について先に特許出願していた場合や先に公開していた場合には、特許権が付与されないため、可能な限り、早く出願することが重要です。また、海外への出願を予定している場合には、各国の発明の新規性喪失の例外規定にも留意する必要があります。各国の国内法令によっては、自らが公開したことにより、その国において特許を受けることができなくなる可能性もありますので十分にご注意下さい。


※1「平成23年 特許法等の一部改正 産業財産権法の解説」特許庁工業所有権 制度改正審議室 編 社団法人発明協会

日本弁理士会東海支部 特許委員会
委員 弁理士 安藤 悟