東海会の活動について

新聞掲載記事

更新:2012/02/29

日本弁理士会東海支部開設15周年記念「知的財産セミナー2012」終了報告

 去る1月27日(金)、ヒルトン名古屋にて、日本弁理士会東海支部の開設を記念して、知的財産セミナー2012が開催された。東海支部開設15周年となる本年は「中部経済のパラダイムシフトと技術開発戦略・知財戦略」をテーマとして掲げ、地元優良企業三社の知的財産部長による知財講演(三部)と、地元名古屋大学大学院准教授による特別講演とが行われた。

○知財講演・第1部「開発現場の視点で考える知財戦略」

 講 師:ブラザー工業株式会社・知的財産部長・鈴木 剛 氏
 鈴木部長は、製品開発部から約3年前に、知的財産部を一切経験せずに部長に抜擢された。その鈴木部長に開発現場の視点で考える知財戦略を語って頂いた。重点は「知財戦略と経営戦略との融合」。鈴木部長の就任当初、知財部には会社の経営戦略など理解せずに活動する知財部員が少なからずいた。危機感を持った鈴木部長は、知財活動は事業に貢献すべきものだ、そのためには知財部員であっても会社の経営戦略を意識した知財活動が必要だ、と根気よく説いて回った。経営戦略や事業に貢献するためには、まず開発現場の状況を正しく把握し、その上で数年先のありたい姿(知財ビジョン)を創る。そのビジョンを意識し、常にどうやれば勝てるかを考えながら、今の業務を精一杯こなす。定期的に軌道(競合の動き、法改正、出願件数など)をチェックし、その結果、課題があれば活動を手直しし続ける。このサイクルを回す。経営戦略の実行には関連部門の協力・連携が不可欠だ。そのためにも知財部員は、外部とのコミュニケーションを積極的に行い、事業に対する意識を高め、事業のために何ができるのかを知財側面から考え主導する。知財部員には、これらが求められる。

○知財講演・第2部「知財戦略による技術開発支援」

 講 師:日本特殊陶業株式会社・知的財産部長・青木 昇 氏
 青木部長は、知財戦略による技術開発支援として「開発部門では、開発当初から開発戦略・事業戦略を立てている。知財部も、開発当初から知財戦略を立案する。」として、開発段階に応じた知財戦略を展開している。開発の早い段階から自社の特許を、コア技術を保護する差別化特許、各社に共通する技術から生まれる必然特許、そのほか周辺特許群と明確に分類し、差別化特許はライセンス許諾をしない。一方、必然特許や周辺特許はライセンス許諾の対象として事業を円滑に進める戦略だ。即ち知的財産を使って自社技術の差別化を推し進め、それによって本業で利益を出す。このように事業の差別化戦略を支援するために知財戦略を働かせている。

○知財講演・第3部「知財戦略無くして事業戦略無し」

 講 師:株式会社デンソー・知的財産部長・碓氷 裕彦 氏
 碓氷部長が2005年に打ち出した知財方針は、DENSO IP VISION 2015「知財戦略無くして事業戦略無し」。各事業部の長期構想を知財の観点から検証し、事業戦略と一体化した知財戦略を知財部がリードする。知財活動の指標は特許料収支に置く。実施計画として銀河計画がある。事業戦略と一体的に特許戦略を定め、特許料収支を指標として進捗を管理する。銀河計画で中心となる発明を金星発明とし、金星発明については出来る限りの特許活動をする。まず徹底した公知資料調査。次に技術部と知財部とが一体となって、実施例10以上、図面20以上、請求項30以上の基礎明細書の作成。更に競合他社の立場での回避案の検討。これを複数のチームで行い、追加実施例10以上、追加図面10以上、追加請求項10以上の補充明細書を作成する。更に10カ国以上の外国出願。特許庁審査官との面接審査。3以上の分割出願などで金星発明を確実に保護する。銀河計画により事業にマッチした金星発明の数を増し、特許料収支を上げていく。2015年に向けて、この知財戦略は着々と進行している。

○特別講演・「中部地域のモノづくり企業の進路」

 講 師:名古屋大学大学院経済学研究科・准教授・山田 基成 氏
 現在の中部地域の主力産業は輸送用機器製造業・電気機械器具製造業だ。これらが全出荷額の50%を占める。一方50年前の1950年代はどうだったか。紡織業・窯業が当時の全出荷額の50%を占めていた。50年を経て構造が逆転した。では輸送用機器製造業に代表される自動車産業は今後も成長するか?答えは、新興国向けは成長するが、先進国向けは横ばいに止まるだろう。新興国顧客の要求水準と先進国顧客の要求水準とは明らかに異なる。新興国顧客の要求水準はずっと低く、今後はその要求に合った自動車づくりが要求される。そのためには海外生産がさらに拡大するだろう。中部地域の中小企業は、今まで自動車産業を中心に地元大企業の成長と安定との利益を享受してきたが、今後は変革期を迎えるだろう。中小企業においても、既存事業のイノベーションとは別に、新技術・新製品・新事業を創出するイノベーションが不可欠となる。しかもこのイノベーションから収益を得るには、他社の模倣を困難にする専有権の確保がカギを握っている。

日本弁理士会東海支部 副支部長
弁理士 兼子 直久

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