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新聞掲載記事

更新:2012/01/27

特許委員会の研究成果から~改正特許法の解説(2)~

1.はじめに

 特許法等の一部を改正する法律案(以下、改正法)が平成23年6月8日に公布され、平成24年4月1日から施行されます。今回は、本紙9月掲載の概説に続き、「通常実施権の対抗制度の見直し(ライセンス契約の保護の強化)」について解説します。

2.現行の制度

 現行は、通常実施権について「登録対抗制度」を採用しています(特許法第99条第1項)。従って、特許権者からライセンスを受けた者は、ライセンスに係る通常実施権を特許庁に登録しないと、特許権を譲り受けた者から差止請求や損害賠償請求を受けるおそれがあります。また、特許権者が破産した場合、破産管財人により契約が解除されるおそれがあり、通常実施権者は事業を継続できなくなることがあります。

3.現行の制度の問題および制度の見直しの必要性

 実務上、一つの製品の開発や製造にあたり、複数のライセンス契約に基づき多数の通常実施権が許諾されていることが多く、その全てを登録することには多くの手間とコストがかかります。また、ライセンス契約においては実施の範囲に係る条件を詳細に定めることが多いところ、通常実施権を対抗するためにその条件全てを登録することは困難です。そのため、通常実施権の登録率は極めて低い状況にあります。
 また、海外の企業との間でライセンス契約が締結される等、ビジネスがグローバルに行われているにもかかわらず、ライセンスの対抗制度として登録対抗制度が採用されている国は稀であり、主要諸外国との制度的な調和が図られていません。そのため、登録されていない通常実施権者が、海外の特許買収事業者等から差止請求等をうけるおそれが高まっています。

4.改正法の概要

 通常実施権者を適切に保護し、企業の事業活動の安定性や継続性を確保するため、登録を必要とせず、自ら通常実施権の存在を立証すれば第三者に対抗できる「当然対抗制度」が導入されます(法第99条)。
 改正後は、特許権者からライセンスを受けた者は、ライセンスに係る通常実施権を特許庁に登録しなくても、特許権を譲り受けた者による差止請求等に対抗できます。また、特許権者が破産した場合、破産管財人による通常実施権者に対する契約解除権は制限されると考えられます。なお、仮通常実施権にも同制度が導入されます。

5.留意点

 通常実施権を有することの立証責任は通常実施権者にあります。従って、通常実施権者は、第三者に対抗できるようにするために、通常実施権の内容や発生日を立証できるように準備しておかなければなりません。
 一方、特許権を譲り受ける者は、譲り受ける際に、ライセンス契約の有無・内容等を十分に調査し、誰が通常実施権者であるのかを確認することが必要です。通常実施権者は特許権者に対抗できる存在だからです。
 なお、実用新案法および意匠法においても、特許法と同様に「当然対抗制度」が導入されますが、商標法では、従前どおり「登録対抗制度」が維持されます。従って、商標権の通常使用権者は、登録しなければ第三者に対抗できない点に留意が必要です。

日本弁理士会東海支部 特許委員会
委員 弁理士 林 洋志