2011年6月6日~10日、スイスのジュネーブで開催された世界知的所有権機関(WIPO)の特許協力条約(PCT)第4回ワーキンググループ会合(WG)に参加した。既存の2つの本部ビルの間に新ビルの建設が進み、2012年に完成予定である。本部ビル付近に噴水があり、庭園の造形物も洒落ている。入口でガードマンがセキュリティパスを厳重チェックし、安全を確保する。ビルに入場したところ、広々として余裕のある空間造りで、さすが国際機関と思わせるモダンな雰囲気であった。ジュネーブはフランス国に近く、公用語はフランス語であるが、WG会合で概ね英語で発言がなされる。
WIPOは、WIPO設立条約に基づき創設された国際機関であり、1974年12月に国連の第14番目の専門機関となった。2011年現在、WIPO加盟国は184カ国でWIPO事務局長はフランシス・ガリ氏(豪)、PCT加盟国は144カ国である。
WIPOの主な活動は、知的財産権(IP)保護のための各国制度の調和等を目的とする条約の策定、商標や工業意匠、原産地名称の国際登録制度および特許の国際出願制度のサービス提供、技術的法律的な協力を通じて途上国における保護水準の引き上げ、知的財産に関する紛争解決の促進などを行う。
PCT同盟はWIPOの下部機構である。PCTは、発明者及び産業界に対して国際的な特許保護を取得するため有利なルートを提供する。PCTに基づく一つの国際特許出願を行い、数多くの国々において同時に発明の保護を求める。出願人及び加盟国特許庁は、PCTに基き、統一された方式要件、国際調査及び予備審査報告、及び一元化された国際公開による恩恵を受ける。国内特許の付与手続及び関連手数料の支払いは、従来の外国出願に比べて18ヶ月以上延期される。それまでの間に出願人は、特許保護を取得できる可能性について重要かつ価値ある情報を入手できる。
PCT制度の非効率性等の改善を目的として、PCTリフォームがなされた。
2002年、国際出願の電子出願手続の実施細則、国内移行期限の一律30月化、「WO」の公開番号付け手法、電子形式国際出願に対する手数料減額、国内移行期限徒過した権利回復の規則が改正された。
2004年、みなし全指定制度、国際調査報告の作成時に見解書作成、国際予備審査の請求期限、署名要件の緩和の規則が改正された。
2005年、国際調査機関及び国際予備審査機関における簡素化された異議申立手続の規則が改正された。
2006年、国際出願及びPCT公報の電子形式発行、みなし全指定制度の例外、国内要件に関する申立公開、手数料減額の規則が改正された。
2007年、国際出願の欠落要素及び欠陥部分、優先権の回復、明白な誤記の訂正、様式上の要件、補充訂正の手続、国際調査機関の最小限要件の規則が改正された。
2008年、先の調査結果を考慮する請求、優先権の回復請求手数料の支払い期間延長、国際公開の技術準備が完了する前に国際事務局が受理した明示の取り下げ、国際出願手数料の5%減額、事前の写しの電子メールによる送付の規則が改正された。
2009年、14条(4)に規定する宣言、補充国際調査の対象と範囲の限定、補正の様式、所定の通貨の換算額の規則が改正された。
2010年、願書の様式修正、デジタルアクセスサービスによる優先権証明書請求、PDF電子提出の規則が改正された。
今年参加した第4回会合で、開発途上国への技術援助、PCT機能改善、第三者による情報提供システム、英国のファーストトラック制度、共同調査の報告、PCTオンラインサービス(e-PCT)、PCT規則改正(規則17.1の優先権証明書の提出、規則82の国際段階の期限徒過の救済規定等)、新議題(条約第51条の技術援助の規定)が議論された。
特許法常設委員会(SCP)やWGでの議論に関し、途上国側、特に、開発アジェンダグループと先進国側の間での議論に温度差があるが、議論の進め方には進化が感じられる。日米欧三極特許庁会合、日米欧中韓五大特許庁会合、先進国会合(B+会合)等によるIPの更なる活発な議論にも期待したい。
日本弁理士会 国際活動センター
副センター長 弁理士 尾崎 隆弘