東海会の活動について

新聞掲載記事

更新:2011/10/28

「商標の類否判断」研究成果-類否判断では三点観察と取引実情を考慮-

(1)我々弁理士が弁理士業務を行うためには弁理士会に所属しなければならず、東海地区の弁理士は弁理士会東海支部に所属することとなります。東海支部商標委員会は、この弁理士会東海支部に設置された数ある委員会の中の一つで、商標制度の運用状況を把握し、商標に関する様々な情報を迅速に支部会員に提供することなどを主な目的として活動しております。そこで、実務情報を提供することにより支部会員の実務の研鑽を図るべく、平成22年度の支部商標委員会では、商標における普遍的なテーマである「商標の識別性」及び「商標の類否」の問題に絞って研究を行い、当該年度末に支部会員に向けた講演活動を行いました。本欄では、紙面の都合上、「商標の類否」の中からいくつかの研究テーマを抜粋して簡単に紹介いたします。

(2)皆さまが自社の商品に何か名前をつけようとしたとき、似た名前の商品がすでに市場に出回っているようなケースでは商標の採択の判断にかなり悩まれるのではないでしょうか。我々弁理士にとっても、商標の類否の判断には大いに悩まされる場合がありますが、これまでの特許庁や裁判所での類否判断の傾向を研究することによって実務をする上での指針となるものを見つけることができます。そこで、昨年度の支部商標委員会では、昭和から現在に至るまでの基本判例を今一度整理しつつ、比較的新しい判例をいくつかピックアップして調査・研究することとしました。

(3)まず、類否判断の変遷の様子を検討すべく「氷山印事件」(昭和39年(行ツ)第119号)、「大森林事件」(平成3年(オ)第1805号)、「小僧寿し事件」(平成6年(オ)第1102号)についての研究を行いました。「氷山印事件」とは、商標の中に「氷山印」の文字が含まれており、そこから「ヒョウザン」との称呼が生じるため、「しょうざん」という平仮名の先行登録商標との類否が争われた事例です。ここでは、指定商品(ガラス繊維糸)の特殊な取引実情が考慮されて非類似と判断されました。外観・称呼・観念の三点観察に加えて取引実情を考慮した類否判断のベースとも言うべき基準が示された有名な事件です。一方、「大森林事件」及び「小僧寿し事件」は侵害の成否が争われた民事裁判の事例です。ここでも「氷山印事件」の判断基準がいずれにも適用され、「大森林」と「大林森」は類似、「小僧寿し」と「小僧」とは非類似との判断がなされました。一般的に取引過程における混同の有無を判断する侵害事件の方がより取引実情にウェイトを置いた判断がなされる傾向にあると言えます。
 また、結合商標の類否を争った事例として、「リラ宝塚事件」(昭和37年(オ)953号)及び「つつみのおひなっこや事件」(平成19年(行ヒ)223号)についても検討を行いました。前者は、分離観察の手法を採用し、商標の構成態様によっては商標の要部が二つ以上となる場合があることを示した比較的古い判決です。一方、最近の「つつみのおひなっこや事件」では、「つつみのおひなっこや」全体で一つの商標であるとして「つつみ」の部分を分離しそこを商標の要部と捉えた高裁判決を否定しました。このように両事件の結論は異なるものとなりましたが、それは商標の構成態様の違いに起因するためであり、分離観察や要部観察の手法は現在も当然採用されております。

日本弁理士会東海支部 前年度商標委員会
委員 弁理士 石田 正己