1.はじめに
去る平成23年6月8日に、特許法等の一部を改正する法律案(以下、改正法)が公布され、平成24年1月1日又は同4月1日が施行日として予定されています。そこで、日本弁理士会東海支部特許委員会(以下、支部特許委員会)では、本欄においてこの改正法について解説します。
今回の改正法では、大きく分けて次の項目について制度が改正されます。
(1)通常実施権の対抗制度の見直し
(2)いわゆる冒認出願に対する救済制度の制定
(3)審判及び審決取消訴訟における制度の見直し
(4)新規性喪失の例外規定の見直し
(5)特許法条約(PLT)への協調に関する規定の制定
これらの項目のうち、支部特許委員会では、来年1月から3月にかけて、(1)、(2)、(4)について詳しく解説を行う予定です。そこで、今回は、(3)、(5)についての概略を解説します。
2.審判及び審決取消訴訟における制度の見直し
(1)審決取消訴訟提起後の訂正審判の請求禁止(特126条2項)
従来、特許権者は無効審決によって特許が無効とされると審決取消訴訟の提起後に訂正審判を請求できましたが、審理短縮のために、今回の改正では、無効審判が請求された後、特許権者は訂正審判を請求できないこととしました。但し、特許権者は、従来通り「訂正請求」が可能であるとともに、無効審決の前の所定期間内に「訂正請求」が認められます。
(2)再審の訴え等における主張の制限(特104条の4)
侵害訴訟等の判決が確定した後に、対象となる特許権等についての無効又は有効の判断が覆ると、判決の基礎となる行政処分の変更に相当し、再審事由となることから、権利の安定に支障が生じます。そこで、一旦判決が確定すると、「蒸し返し」となる主張を制限することとしました。
(3)審決確定範囲に関する規定
従来、無効審判は、請求項毎に請求し、請求項単位で審決が確定します。これに対し、訂正審判は、特許権単位でしか請求できません。このように、審判の性格毎に審判請求の単位が異なり煩雑であったため、訂正審判についても請求項単位で請求することとしました。
(4)無効審判の確定審決の第三者効力の制限(特167条)
無効審判の一事不再理の原則下では、一旦確定した審決に対し、同一の事実及び同一の証拠による審判を請求することができません。しかし、稚拙な無効審判が請求されると、本来無効とすべき特許権が存続するという不合理がありました。そこで、確定した審決の効力は当事者のみを拘束し、第三者は同一の事実及び同一の証拠であっても無効審判を請求できることとしました。
3.PLTへの協調に関する規定の制定
PLTでは、手続期間の徒過に対する救済が求められています。そこで、特定の手続については、正当な理由があれば、手続期間の経過後であっても、救済することにしました。但し、優先権主張、審査請求等については、救済の規定は設けられていないので注意が必要です。
4.最後に
今回は、改正法のうち一部の規定の概要について解説しました。但し、紙面の都合もあり、解説が不十分及び用語の使い方が不正確になっている点もあります。詳しくは、最寄りの弁理士にご相談されることをお勧めいたします。
日本弁理士会東海支部 特許委員会
委員長 弁理士 南島 昇