東海会の活動について

新聞掲載記事

更新:2011/08/31

商標委員会の研究成果から~事例から視る商標の識別性と類否判断の基礎知識と傾向~

1.日本弁理士会東海支部は、東海地区の日本弁理士会会員により構成されております。また、東海支部は、会員に対する情報提供と実務能力向上のために、専門分野毎の委員会を設けております。その一つが東海支部商標委員会(以下「商標委員会」といいます)です。

2.商標委員会は、2010年度、「事例から視る商標の識別性と類否判断の基礎知識と傾向」をテーマとする研究を行いました。このテーマは、商標法の最も重要な基本問題ですが、自社の商品や事業に使用するいわゆる“ブランド”や“屋号”、そして“広告宣伝”に関する課題であり、読者の皆様が通常の事業活動において直面するテーマです。そこで、検討課題のうち「商標の識別性」を御紹介致します。読者の皆様が、“ブランド”や“屋号”の課題に直面したとき、この記事を思い出していただければ幸いです。なお、検討課題の詳細な説明につきましては、紙面の都合上御紹介ができません。研究成果の詳細をお知りなりたい方は、日本弁理士会東海支部、電話:052-211-3110 までお気軽に御照会ください。

3.商標の識別性
 商標の識別性とは、ある表示が貴社の商品や業務であることを他社の商品や業務と区別でき、貴社独自の「のれん」を作り上げることができる性質です。商標の識別性は、商標を特許庁に登録するために必要な条件です。一方、商標の識別性がないと判断される表示は、商標登録を受けることができない反面、だれでもその表示を使用することができます。

(1)キャッチフレーズ:原則的には、商標の識別性がないものと考えられています。一方、登録されている実例もありますので、キャッチフレーズの採択に際しては、商標登録有無の事前調査が必要です。

(2)容器の立体的な形状:容器の立体形状そのものは、商標の識別性はなく登録できません。但し、一定期間の使用により識別性が発揮できる状況になれば商標登録の可能性があります。

(3)メタタグ:インターネット上に開設するウェブサイトにおいて、ページを表示するためのhtmlファイルに埋め込む記号です。基本的には商標の識別性を発揮しているものとは断定できませんが、競合する第三者商標をメタタグに使用することは、ウェブサイト上の表示内容との関係において第三者商標を自社の広告・宣伝のために使用していると判断され、商標的な使用と認定されることがあります。

(4)商品の原材料:表示が商品の原材料が、登録判断の時点で、原材料名としてさほど頻繁に使用されていなくても、「将来的」に需要者・取引者にその商品の原材料又は品質を表すものと認識される可能性があれば、将来の自由使用の確保という公益的観点から、識別性が否定される可能性があります。

(5)ありふれた氏又は名称:原則として、同種のものが「50音別電話帳」等においてかなりの数を発見することができる氏又は名称が該当します。「焼酎」の商標として出願した「こんの」という商標が、「今野」や「紺野」という氏を平仮名で表したものと認識され、インターネット上の「全国の苗字」と称するサイトでは「今野」は283位、「紺野」は962位とされており、「日本の苗字7千傑」と称するサイトでは「今野」が284位で約78,000人、「紺野」が971位で約19,000人いることが確認できるとし、ありふれた氏であるとして登録を認めない事例もあります(特許庁拒絶査定不服審判2009-4903号、商願2008-26284号)。

日本弁理士会東海支部 前年度商標委員会
委員長 弁理士 中村 知公