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新聞掲載記事

更新:2011/04/28

おっとアブナイ!その商標-身近で起こる商標事件-

 商標事件というと、有名ブランドの模倣品を思い浮かべる方も多いと思われます。しかし、商標は商品やサービスの出所を表示するための目印であり、商品の販売やサービスの提供を行っている限り身近なところでも起こり得ます。今回は、東海地域で起こった地方の名物に関する事件をご紹介します。
 まずは、岐阜県大垣市の名物「水まんじゅう」に関する事件です。「水まんじゅう」とは、「葛澱粉で餡を包んで水で冷やした水菓子」で、水都・大垣市の夏の風物詩として有名であり、市内の多数の和菓子屋において製造販売されています。事件は、平成7年にある会社が「水まんじゅう」の商標登録出願をしたことから起こりました。
 このような商品の一般名称は、通常、商品等の出所を表示する目印とは認識されず、また、特定の者に独占させることは適当ではないので商標登録されないのが原則です。
 としても、「水まんじゅう」は、他の地方では「葛饅頭」の名称で呼ばれているようであり、一地域のみで通用しているにすぎない名称は商標登録されてしまうおそれも否定できません。
 そこで、大垣市内の業者は「対策委員会」を設け、発祥の地であることの証明書を市長、医師会、鉄道会社などから28通集め街を挙げて異議を申立て、出願は取下げられたとのことです」(大垣市HPより)。
 ところで、ある商品について一般的に使用されている名称が誤って登録されたとしても、かかる名称を当該商品に普通について用いられる方法で表示する商標には商標権の効力は及びません(商標法第26条第1項第2号)。しかし、ひとたび商標登録がされてしまうと牽制作用や萎縮効果が生じることも考えられますから、異議申立て等をして商標登録を阻止することが望ましいといえます。
 次に、名古屋名物として有名な「ういろう」に関する事件です。これは、名古屋の株式会社青柳ういろうが指定商品「ういろう」について「青柳ういろう」の商標登録をしたところ、小田原にある株式会社ういろうが自己の先願登録商標に類似する等として登録の無効を求めたものです。
この事件では、「ういろう」が外郎家に由来する固有名詞であるか、菓子の一種である「ういろう」を意味する普通名詞であるかが争点となりました。
 判決によれば、「ういろう」は、1368年、元の滅亡に際し中国から我が国に帰化した陳外郎を始祖とする外郎家の姓に由来し、かつて、外郎家の製造する菓子の「ういろう」であることを示す固有名詞であったが、次第に菓子の一種である「ういろう」を意味するようになり、本件登録時である平成6年には既に普通名詞になっていたとして、株式会社ういろうの無効請求を認めませんでした。
 このように当初特定の商品出所を表示する固有名詞であった語が、時代とともに次第にその商品の普通名詞となることは、決してまれなことではありません。商標は、一般的には有名になればなるほど価値が増すものですが、特定の出所との関連が認識されないまま有名になると、普通名称化してしまうおそれがあります。自らの商標であることを需要者に認識させつつ有名にすることが肝要でしょう。

弁理士 木村 達矢

青柳ういろう商標登録第2651208号 青柳ういろう商標登録第2651208号

株式会社ういろう(小田原外郎家)商標登録第454581号 株式会社ういろう(小田原外郎家)商標登録第454581号