近年、経済活動のグローバル化により、日本企業の企業活動は日本だけでなく、海外にまで及んでいます。しかしながら、海外で特許権による保護を受けようとする場合は、特許権の保護を受けようとする国毎に特許権を取得する必要があります。今回は、海外で特許権を取得するための手法について紹介いたします。
Ⅰ.特許権の保護を必要とする国毎に特許出願を行う(各国出願)
最もオーソドックスな手法です。日本企業の場合は、既に日本国特許庁に特許出願を行っているものと同じ内容を外国の特許庁に特許出願するケースが多いため、このケースについて説明します。日本企業が外国出願を行う際は、日本特許庁への特許出願の出願日(以下、優先日と称します)から12ヶ月以内に、特許権の保護を希望する国の特許庁に特許出願を行うことにより、当該国において、日本の特許出願の出願日に出願したものと同等の扱いを受けることができます。これは、国際条約であるパリ条約の規定に基づくものです。従って、海外で特許権を取得することを考える場合は、まず、優先日から12ヶ月以内に特許権の保護を必要とする国に、直接特許出願することを検討することが良いでしょう。
ただし、この場合は、特許権の保護を必要とする国の言語で特許出願書類を作成する必要があります。通常、各国の様式に合った特許出願書類を作成したり、日本の特許出願の内容を各国の言語に翻訳するために必要とされる期間は、約3ヶ月程度必要とされ、費用もかかります。
Ⅱ.日本特許庁へ国際出願(PCT出願)を行う(国際出願)
PCT(特許協力条約)の規定に基づく国際出願(PCT出願)を行うものです。この場合も、優先日から12ヶ月以内に国際出願を行います。各国出願とは異なり、特許出願書類を日本語で作成し、日本国特許庁へ出願することができます。日本国特許庁が開設しているインターネット出願によって出願することもできます。特許権の保護を必要とする国は、指定国として特許出願書類に記載します。日本特許庁へ国際出願を出願することによって、指定国に出願したのと同等の扱いを受けることができます。特許出願を行った後、日本国特許庁から国際調査報告が出願人に送られてきますが、これは日本語で作成されます。また、出願人が希望する場合は、さらに国際予備審査を請求することができ、特許権の取得の可能性の判断材料にすることができます。留意すべき点は、優先日から30ヶ月以内に指定国への移行手続が必要とされることです。移行手続では、各指定国の様式にあった書類を準備する必要があり、この準備には時間及び翻訳等にかかる費用が必要です。優先日から30ヶ月以内に各指定国に移行しない場合は、各指定国において出願が取り下げたものと見なされます。
国際特許出願のメリットは、先に述べたように、日本語で日本国特許庁へ手続を行うことができることに加え、出願人は、国際調査報告の結果を見て、国際出願を、どの指定国に移行させるかを判断することができます。例えば、国際調査報告の結果を見て、特許権の取得の可能性が低いと考えられた場合は、指定国への移行手続を見合わせることで、余計な翻訳費用をかけずに済みます。
Ⅲ.まとめ
外国出願には上記した主に2つの手法がありますが、各手法の得失を勘案し、ケースバイケースでいずれかの手法を選択すべきでしょう。
日本弁理士会東海支部 知的財産権制度推進委員会
副委員長 弁理士 吉田 健二