自社商品を他人の模倣から守る手立てとして、技術的なアイディアを保護する特許や実用新案、デザインを保護する意匠、商品等に付ける商標などは、比較的よく知られています。特許などは、特許庁に対して出願という手続を行い、特許庁によって登録という行政処分が行われることで、特許発明あるいは登録意匠を採用した商品や登録商標を付した商品を独占的に販売することができます。このように、特許権、意匠権や商標権などの権利を持っていなければ自社商品を守ることができないの?と思われるかもしれませんが、自社商品を守る手立てとして「不正競争防止法」による保護も考えられます。
不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を確保することを目的とする法律であって、自社商品を模倣から保護するだけでなく、原産地や品質などを誤認させる行為を止めさせたり、営業秘密を保護したり、コピーガードをはずす等の行為からデジタルコンテンツを保護したり、自社の商号などと同じドメイン名を他人が取得する行為を止めさせたりする等、競業者の「不正競争」に当たる行為を規制しています。
さて、ニセモノを製造あるいは販売している他人の行為が、どのような場合に「不正競争」にあたるのか3つの例を挙げて説明したいと思います。
まず、自社の商品等表示が需要者に広く知られているときに、この商品等表示と同一または類似する表示を使用等して、他人が自己の商品または営業について混同を生じさせている行為(周知表示混同惹起行為)を行っている場合があります。例えば、A社のマークが中部地方で有名になっているときに、B社が同じマークを描いたTシャツを販売し、このTシャツがA社の商品であると購入者に誤解を与えていれば、このマークについて商標権を持っていなくても、不正競争防止法に基づいてB社に販売行為を止めるよう求めることができます。ここで、商品等表示とは、商標だけでなく、商号や商品の容器や包装など、商品または営業を表示するものを幅広く含みます。
次に、自社の商品等表示が著名になっているときに、この商品等表示と同一または類似する表示を他人が使用等する行為(著名表示冒用行為)を行っている場合があります。例えば、A社のマークが日本全国で有名になっているときに、B社がマークを描いたTシャツを販売していれば、このTシャツがA社の商品であると購入者に誤解を与えているか否かに関わらず、このマークについて商標権を持っていなくても、不正競争防止法に基づいてB社に販売行為を止めるよう求めることができます。
最後に、自己の商品形態を模倣した商品を、他人が譲渡等する行為(商品形態模倣行為)を行っている場合があります。例えば、A社のテレビの外観をそっくりまねして作ったテレビをB社が販売している場合に、A社がテレビについて意匠権を持っていなくても、不正競争防止法に基づいてB社に販売行為を止めるよう求めることができます。
このような不正競争防止法による保護があるので、特許権や商標権などを取得する必要がないと思われるかも知れませんが、特許権や商標権などと比べて、保護を求める際に必要とされる要件が不正競争防止法は厳しく、またいろいろな制約があって万能とはいえません。従って、自社の事業のなかで重要な商品は、特許権、意匠権や商標権などを取得してより確実な保護を図る必要があることには変わりはありません。
弁理士 多賀 久直