日本弁理士会東海支部では、平日の13時から16時まで無料特許相談を行っています(http://www.jpaa-tokai.jp/consultation/)。相談に訪れる方は、かなり特許制度に詳しい方から、初めて特許をとろうと思い立った方まで様々です。今回は、初めての方との無料特許相談の形式を借りて、出願前の行動に関する基本的な注意事項をご紹介します。
相談者:
これ(商品を取り出す)、ウチの会社の商品なんですけどね、最近よく売れてるんで、知り合いから「特許をとっておいたらどうだ」って勧められたんです。ほら、ここの部品の構造が他社とは全然違うんです。どうですか、特許になりそうですか?
当番弁理士:
まだ出願はしていないんですね?残念ながら、特許出願前に販売しているものは特許になりません。特許をとるためには発明が「新規性」を有する必要があるのですが、発明品を販売すると、その発明は人前で「公然と実施された」ことになるので新規性がなくなってしまうのです(特許法第29条第2項)。仮に海外でしか販売していなくてもダメです。
相談者:
そうですか・・・(気を取り直して)実は他にも特許ネタがあるんです(別の製品を取り出す)。これはまだ発売前だから大丈夫。先週、飛び込み営業に行ったら、とんとん拍子に商談が成立したんです。発売日を確認して、その前に特許出願を・・・
弁理士:
飛び込み営業?ではその商談先とはそれまで特に関係はなかったんですね。うーん、残念ながら、特許出願前に発明の内容を不特定人に話してしまったら、その発明は「公然と知られた」ことになって新規性が失われるので、やはり特許をとることはできません(特許法第29条第1項)。
相談者:
えーっ。でも、相手先の社内の会議室で、担当者一人と商談しただけですよ。街頭でメガホン使って通行人に呼びかけたとか、TVで宣伝したとかいうんじゃあるまいし、こんなの「公然と知られた」うちに入らないでしょう。
弁理士:
ここは誤解されやすいんですが、特許法で「公然と知られた」というのは、「芸能人のAさんがBさんと交際しているのは“公然の事実”」みたいなイメージとはちょっと違うんです。さきほど言った「不特定人」とは、秘密にすべき関係にない人、つまり守秘義務のない人をいいます。守秘義務のない人がたった一人でも発明を知ったら、その発明は「公然と知られた」ことになります。
相談者:
厳しいなぁ。いい発明は四の五の言わずにどんどん特許にすればいいのに。
弁理士:
特許制度は、新しい発明をした者にはその発明を世の中に公開することの代償として一定期間の独占権(特許権)を与える一方、第三者には公開された発明を利用する機会を与える、というものなんです(図参照)。すでに世の中に知られている発明は、公開しても技術の進歩に貢献しないので、特許というご褒美はもらえないわけです。それから、あなたが特許出願する前に、同じ発明が他人によって公然と実施されたり知られたりした場合にも、その発明の新規性は失われます。さらに、日本の特許法は先願主義なので、他人が偶然同じ発明を先に出願していたら、後から出願したあなたには特許が与えられません(特許法第39条)。ですから、特許をとるためには、製品の発表や販売に間に合わせるだけでなく、なるべく早く出願するほうが有利なのです。(※注:他にも進歩性、産業上の利用性など、いくつかの条件があります。)
相談者:
じゃあ、まだ誰にも話していないアイデア。ここに来る途中で思いついたんです。これは大丈夫ですよね。誰かに先を越されるといけないから、弁理士さんに頼んで明日にでも出願してもらうように・・・
弁理士:
ただし、特許出願書類では、抽象的な着想だけではなく、その着想をどうやって具体的に実現するかを同業者にわかる程度に説明する必要があるので気をつけてくださいね(特許法第36条)。第三者が技術情報として利用できなくては公開の意味がないからです。それと、弁理士に特許出願を依頼する場合、発明内容の説明を受けてから特許出願までには、早くて二~三週間、一般的には一ヶ月以上の時間がかかります。特に、公開の予定がある場合(発売日が決まっている等)には、依頼の際に、公開予定のあることとその時期を必ず伝えてください。では、今日はこのあたりで・・・
弁理士 大井 道子