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新聞掲載記事

更新:2009/07/31

パリ条約

 例えば、日本の企業が自社の製品を外国でも売り出そうとした場合に、一つの特許で世界中に通用するような「世界特許」の制度があれば便利です。また、世界各国の特許庁を統合して単一の「世界特許庁」を設置し、そこで特許審査を行えば、各国ごとに行われている特許審査の重複した労力という無駄をなくすことができます。こうした特許における世界統一の構想は古くから提案されており、明治初期までさかのぼることができます。
 1878年にパリで国際博覧会(パリ万博)が開催されることが決まった際、各国は当時の先端技術に係る製品を出品しようとしました。ところが、せっかく新技術に係る製品を国際博覧会に出品したとしても、それが真似されてしまったのではたまりません。
 このため、工業所有権の保護ついて国際会議が招集されました。この会議では、特許や商標や意匠など、工業所有権の全般について、その国際的な協定を締結することが必要との旨が決議されています。そして、なんと世界的な統一的法規を決めることについても討議がされております。
 しかしながら、各国の工業所有権に関する法規はバラバラであり、統一的法規を決めるには時期尚早であるとされ、残念ながら実現には至りませんでした。そのかわり、国際会議終了後、何回かの国際会議を経て、1883年に、工業所有権に関する国際条約が締結されました。この条約は国際会議がパリで開催されたことから、「パリ条約」と呼ばれており、現在に至るまで工業所有権に関する最も重要な国際条約となっております。

 パリ条約の大原則は、まず各国の工業所有権制度に違いがあることは是認しましょうということです。そして、なんとか国際的な統一ルールが可能な部分については、個別的に国際的な保護を図っていきましょうという、現実路線がとられています。その結果、パリ条約において2つの重要な基本ルールが生まれました。これが「内国民待遇の原則」及び「優先権制度」です。
 「内国民待遇の原則」とは、工業所有権の保護に関し、内国民(自国民)と外国民とを差別してはいけないという原則です。自国の産業を保護するために、差別的な取り扱いが行われやすいことから、導入された原則です。例えば、自国民にだけ特許を認めたり、権利の存続期間を長くしたりといった取り扱いは、条約違反となります。
 また、「優先権制度」とは、ある発明について自国で出願した後、同じ内容の発明を他国に出願した場合、自国出願時まで遡及的な取り扱いを認めるものです。この制度は、ある発明について、全世界で同時に出願するのは、言語や様式が異なったりして困難なことから認められた制度です。この優先権制度を利用すれば、とりあえず自国に出願をしておき、後でゆっくりと外国出願の準備をすることが可能となり、世界各国での工業所有権の保護が受けられ易くなります。

 パリ条約への日本の加盟は1899年7月15日と古く、最古参の加盟国です。これは、当時日本が諸外国と結んでいた不平等条約を解消するため、その条件として加盟したといわれています。パリ条約は、その後何度か改正会議が行われ、様々な工業所有権に関する国際保護制度の拡充がなされました。そしてパリ条約締結当初、日本を含め僅か18国だった加盟国は、現在170ヶ国以上に及んでいます。

弁理士 青山 陽