(1)はじめに
本年度の日本弁理士会東海支部の活動の大きな柱として中小企業支援活動があります。昨今の厳しい経済環境の中、現状打破のため、中小企業こそ「何か新しい取り組み」をしなければなりません。
私たちは、「元気のいい」中小企業経営者の皆様に、今現在「元気のいい」原因となったその企業における「過去の取り組み」についてお話を伺っています。元気の原因となった過去の取り組みに普遍性があれば、その普遍性こそ、中小企業経営者が現在行うべき新しい取り組みのヒントになると考えたからです。
そこで、多くの中小企業経営者の皆様から生の声をお聞きして、元気を生んだ過去の取り組みをご紹介させていただくとともに、支援活動のベースとなる現場感覚を養おうと考えています。今回は、第3回目です。
今までの中小企業インタビュー結果から、中小企業の採るべき「取り組み」の1つして『ニッチな市場を狙うこと』が良いと一応の結論付けをしています。大きな海は大企業に任せ、中小企業は小さな海の小さな魚を独占するのが得策です。そして、独占のためのツールとして知的財産権があります。現在の経済環境下では、大企業と戦うよりは、大企業が参入しにくい市場を狙い、知的財産権を活用してニッチな市場を独占することが現実的な戦術と考えます。
そこで、今回は、自社の技術と知的財産権の有効活用により、大企業が参入しにくい市場で売上げを伸ばしている企業を紹介します。
(2)元気のいい中小企業紹介★3★-東海理研株式会社-
東海理研株式会社は、精密板金加工による金属製品の製造を行う会社として、1968年に設立されました。設立数年後に郵政市場への参入を果たし、郵政商品が事業の柱となり、順調に業績を伸ばしてきました。ただ、郵政商品が売上げの大半を占めていたため、設立後15年ほど経過した頃から、自社開発商品を創り出そうとしていました。そのとき、顧客から「限られたスペースで多数のポスターを掲示できないか」という要望があり、これに応えて自社開発されたのが循環式ポスター掲示機「くるくるポスター」です。この「くるくるポスター」は、1978年から販売が開始されました。
その後、「くるくるポスター」の販売代理店から、「百貨店などの大型店舗では、つり銭準備金の受け渡しが大変でとても苦労している」と聞きつけ、つり銭準備金の受け渡しをスムーズに無人対応することができる「特殊保管物ロッカー」をお客様と共に開発し、1996年から販売を開始しました。
この「特殊保管物ロッカー」の開発をきっかけに、佐藤明広社長(当時は専務)が「これからの時代は、色々なセキュリティを必要とする物品の管理が重要視される」と時代の流れを読み、ITを使ったセキュリティ分野への進出を決定しました。セキュリティに関する技術開発は、自社で行うとともに大学等の研究機関とも共同で行っています。そして、2003年にネットワークセキュリティシステム「アクセスウォール」を商品化して販売しました。
その後、セキュリティ分野での売上げが順調に伸び、新たなセキュリティ商品の開発が行われ、現在の主力商品である「デジタル@ICキーシリーズ」が商品化されました。
この「デジタル@ICキーシリーズ」では、いつ、誰が、保管庫などを開閉したかを、パソコンで一元管理できるようになっています。もちろん、「デジタル@ICキーシリーズ」の基本技術については特許を取得しています。特許取得の際、早期審査制度を積極的に利用して早期権利化を図っています。また、「デジタル@ICキーシリーズ」を取り付ける保管庫などの箱物については、東海理研株式会社の得意とするところであり、お客様のニーズに合わせたものを製作しています。そして、「デジタル@ICキーシリーズ」の運用方法も含めて、お客様のニーズに合ったセキュリティシステムを提供できることが東海理研株式会社の強みとなっており、ニッチな市場で順調に売上げを伸ばしています。
なお、「デジタル@ICキーシリーズ」の開発中に、郵政民営化が行われ、郵政商品の売り上げが激減しましたが、開発型企業への転換が図られていたため、郵政商品オンリーの同業他社が倒れていく中で、東海理研株式会社は、前述の商品を含む複数の自社開発商品により、売上げ激減による危機を何とか乗り越えることができました。
そして、現在では、郵政商品に代わり、「デジタル@ICキーシリーズ」を始めとするセキュリティ商品が事業の柱になろうとしています。
厳しい経済環境である今こそ、ニッチな市場を狙って、自社の技術を活かせそうな大学の発明や休眠特許等の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
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東海理研株式会社
〒501-2698 岐阜県関市武芸川町谷口599
TEL:0575-46-1111
FAX:0575-46-2627
HP:http://www.tokairiken.co.jp
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日本弁理士会東海支部 知的財産支援委員会
委員 弁理士 野村 茂樹