(1)はじめに
本年度の日本弁理士会東海支部の活動の大きな柱として中小企業支援活動があります。昨今の厳しい経済環境の中、現状打破のため、中小企業こそ「何か新しい取り組み」をしなければなりません。
私たちは、「元気のいい」中小企業経営者の皆様に、今現在「元気がいい」原因となったその企業における「過去の取り組み」についてお話を伺っています。元気の原因となった過去の取り組みこそ、中小企業が現在行うべき新しい取り組みのヒントになると考えたからです。
今回ご紹介する企業は、創業事業の基盤技術をもとに新事業に進出し、この新事業の基盤技術をもとに新たな新事業に打って出ようとしている企業です。
(2)元気のいい中小企業紹介★6★-株式会社ツキオカ-
・創業は箔押事業
株式会社ツキオカは、金箔・銀箔を用いた特殊印刷である「箔押」の加工メーカーとして1966年に創業しました。箔押事業としては、常に最先端の技術を積極導入し、ISO9001の導入も業界に先駆けて行いました。現在では、“技術と管理のツキオカ”と評価されています。
・食用純金箔粉事業へ
その後、同社は、「箔押」を基盤技術として、関連する技術開発に積極的に取り組むことでノウハウを蓄積し、「箔押」を食品分野に導入することを考えました。すなわち、可食フィルムの上に純金箔を箔押した食用純金箔粉の製品化を検討し、1994年に成功しました。この技術で生まれた商品は、1996年“第19回国際食品飲料品賞”を受賞しています。もちろん、世界的に認められたこの技術について、世界の主要国で特許を取得しており、同社は、知的財産に関する関心も高い企業です。
・可食フィルム事業へ
ここで、同社は、食用純金箔粉事業に必要な可食フィルムを自社生産することを考えました。このことは、同社の基盤技術である「箔押」から離れて、新しい技術分野に挑戦することでした。
ここでは、同社のモットー“常に新しい夢をICHIBANにする”が生かされています。2001年には、可食フィルムを製造する独自の方法を開発し(国内特許取得)、可食フィルムの自社製造を開始しました。この可食フィルムを利用した商品には、従来の食用純金箔粉の商品群以外にも、例えば、一般消費者によく知られた口臭防止用フィルム(OEM生産)、医薬部外品、化粧パックなど多くのものがあります。この可食フィルムの製造事業は、同社の創業事業である「箔押」とは技術分野の全く異なる新しい事業となりました。
・医薬品製造業許可(GMP認定)
同社のモットー“常に新しい夢をICHIBANにする”は、更に続きます。新事業となった可食フィルム事業を食品や化粧品の分野で展開するとともに、更に医薬品分野への応用を考えました。このことは、同社の新事業である可食フィルム事業の基盤技術である「可食フィルム」を更に進化させ、新しい技術分野に挑戦することでした。
この分野とは、可食フィルムに薬剤を混合したシート状フィルム製剤の開発と、可食フィルムを袋状にして薬剤を封入したパックフィルム製剤の開発です。これらのフィルム製剤は、嚥下困難な方、高齢者の方、幼児が水なしで服用でき、気道をふさぐ心配のない安全な製剤です。
この分野において同社に協力したのは、地元の岐阜大学医学部付属病院薬剤部や岐阜薬科大学の先生方でした。同社は、これらの大学と積極的な共同研究を行い、学術発表を行うとともに、特許出願も積極的に行ってきました。同社は、医薬の分野における特許の重要性も十分認識している企業です。
本来の箔押事業あるいは新事業の可食フィルム事業からみても、まったく異なる医薬品の分野において、同社は、単なる材料提供にとどまらず、自ら積極的に医薬品製造業に挑戦しました。その結果、2007年4月には医薬品製造業許可(GMP認定)を受けることができ、新事業分野への体制が整いました。
・フィルム製剤事業へ
このように、2007年同社は、「フィルム製剤事業」をスタートしました。このような事業推進の中で、同社には優秀な人材が育ち、また、集まっています。社員数123人の同社には、現在、2人の薬学博士、2人の農学博士、そして、4人の薬剤師が働いています。このうちの1人は、デザイナーとして同社に入社し、その後、可食フィルムの開発に携わり、続いて、フィルム製剤の開発を行って薬学博士の学位を取得した人です。このように、同社は、“常に新しい夢をICHIBANにする”をモットーにして、技術を大事にするとともに、社員も育てているようです。
まもなく、国内第1号のフィルム製剤に対する医薬品製造販売承認が下りることになっています。この承認が下りれば、フィルム製剤の製造が本格稼動し、同社の新事業から生まれた新たな新事業がスタートすることになります。
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株式会社ツキオカ
〒504-0925 岐阜県各務原市松本町2-451
TEL:058-383-2911
FAX:058-371-0768
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日本弁理士会東海支部 知的財産支援委員会
委員 弁理士 山田 稔